渡海は日曜劇場に“メス”を入れたか? 『ブラックペアン』に見る新たなヒーロー像

『ブラックペアン』に見る新たなヒーロー像

3. “ホーム”がない

 上戸彩(『半沢直樹』)、市川実日子(『小さな巨人』)、檀ふみ・上白石萌音(『陸王』)らが演じた主人公の家族は、主人公が仕事から帰ってくると、疲れて帰ってきた主人公を迎え入れ、励ましたり笑わせたり、時には厳しいことも言ったりと、“戦場からのしばしの休息”とも言うべきシーンの中で、観ている者をなんとなくほっこりとした気持ちにさせてくれた。これは先に挙げた作品に限った話ではない。『99.9-刑事専門弁護士-』でも深山(松本潤)が仕事終わりに料理をしに訪れる小料理屋のシーン(深山がそこを暖かく思っているかは別として)や、日曜劇場ではないが、『ドクターX』(テレビ朝日系)での麻雀シーンも、しばし憩う場所としての“ホーム”とするならば、多くのヒーロー・ヒロイン作品でこうした演出があるものだ。

 確かに、『ブラックペアン』では、倍賞美津子演じる母・春江との電話シーンや、実際に入院してきた母との会話シーンなど、全くそうした演出がないわけではないが、基本的には仕事が終わった渡海は1人、仮眠室のソファに戻っていく。「おかえり」はないのだ。こうした描かれ方は渡海の“孤高のヒーロー性”を一層引き立たせるとともに、どこか悲哀に満ちた感じを醸すことに成功している。特に、仕事終わりに1人タバコを吹かすシーンなどは、渡海という医者の孤立性をクールに演出している。だからこそ、半沢や香坂らとは異なった、クール(すぎる)彼の側面が魅力として光るのであろう。ちなみに、日曜劇場の池井戸作品で家族が出てこなかったのは『ルーズヴェルト・ゲーム』の細川(唐沢寿明)だけだ。

 さて、次回でいよいよ最終話を迎える本作。世良や高階ともなんだかんだうまくやっていけるようになり、渡海が1人でこなすというよりも、チームとなってオペに当たる場面も多くなってきた(余談だが、第9話の遠隔操作のシーンは『未解決の女』(テレビ朝日系)の“コナンくん方式”を思い出した)。ブラックペアンの謎とは? 渡海の父と佐伯との間に起きたこととは? 次回の最終回での急転直下の結末に目が離せない。

(文=國重駿平)

■放送情報
日曜劇場『ブラックペアン』
TBS系にて、毎週日曜 21:00~21:54放送
原作:海堂尊『新装版 ブラックペアン1988』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、峠田浩
演出:福澤克雄、田中健太、渡瀬暁彦
出演:二宮和也、竹内涼真、葵わかな、倍賞美津子、加藤綾子、加藤浩次、市川猿之助、小泉孝太郎、内野聖陽
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/blackpean_tbs/

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