>  > 加藤よしきの『消された女』評

血みどろホラー・サスペンスの新たな快作! 『消された女』は最後まで観客の好奇心を刺激する

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 身から出た錆で苦境に立たされているテレビマンのナムス(イ・サンユン)は、キャリアを一発逆転させるドキュメンタリー番組の題材を探していた。しかし、社会派志向のナムスに上から降りてきた仕事は激安オカルト番組。安い幽霊メイクを施したスタッフたちと現場へ向かうが、そこは火事で大勢が死んだ精神病院というガチ過ぎるスポットだった。何も起きないはずがなく、ナムスらは全身に火傷を負った意味深すぎる人物を発見、とりあえず病院へ連れていく。謎の火傷男と精神病院について調べるうち、この火災が、かつて世間を騒がせた警察署長銃殺事件と深い繋がりがあること、銃殺事件の容疑者カン・スア(カン・イェウォン)という女性が二つの事件を結びつける鍵であることを知る。そしてカン・スアと接触したナムスは、精神病院への「強制入院」という制度を利用した猟奇事件を知ることになり……。

 拉致・監禁・拷問。もはや昭和日本における巨人・大鵬・卵焼き程度には、昨今のホラー/サスペンス映画界で定番となっている展開だ。今回ご紹介する『消された女』(16年)もまた然りだが、特筆すべきは本作の背景、すなわち「精神病院への強制入院」という実在する制度だ。その条件は「保護者2人と専門医1人の診断があれば、患者の同意なしに強制入院を実行できる」。つまり家族と医者がその気になれば、実際に病気でなくても精神病院へ拉致・監禁できるのだ。悪用されたら危険極まりない法律である(この映画の公開後、本人の同意なしは違憲だと裁判所が動いたそうだ)。そんな圧倒的なリアリティを持つ背景に、韓国映画の十八番、腐りきった警察と、「身元が分からん奴には何やってもええんじゃ」系ド外道サイコパスが悪魔合体。さらにPV出身のイ・チョルハ監督のビジュアル・センスのおかげもあって、劇中の精神病院は1ミリも病院に見えない純粋な拷問空間と化している。職員からの治療と称した暴行、ドラッグとセックス、独房のような患者の部屋に対し、異様に豪華な院長室(綺麗なキャンドルがたくさんある)。さらに院長が手を染める最低最悪の「副業」……そのビジュアルは完全にホラーの領域だ(心療内科のイメージ・ダウンが心配である)。

 このように本作はビジュアル面においては間違いなく禍々しいホラーであるが、同時に「情報」を重ねて真相に迫っていくミステリーでもある。ナムルはある時は優秀なアシスタントの取材から、ある時はテレビマンとしてダーティーな手段を使って、警察署長射殺事件と精神科病院全焼事件にある隠された真実へ迫ってゆく。テンポの良さにこだわったとは監督の弁だが、その言葉に偽りなし。次から次へと出てくる新たな事実は(前述のホラー的な地獄描写と相まって)、最後まで観客の好奇心を刺激し続ける。謎の女カン・スアを演じたカン・イェウォンの静かな狂気演技と、徐々にヒートアップしていくナムス役のイ・サンユンの熱い狂気演技、この2人の対比もいい。そしてクライマックスには『哭声/コクソン』(16年)、『殺人者の記憶法』(17年)など、近年の韓国映画のトレンドである大どんでん返しが炸裂。呆気に取られつつ、本当に辻褄が合っているのか? もしかしたら、あのシーンは本当はこういう意味? 等々、最初から確認したくなること必至だ(母国でもリピーターが多かったらしい)。この悩ましい時間が何とも楽しい。

      

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