寂しくない人なんていないーー『あなたには帰る家がある』が描く“自由な時代”の喪失感

『あな家』が描く“自由な時代”の喪失感

 ドラマであれば、画面越しに視聴者として彼らの言動を冷静に見つめられるが、実際はどうだろうか。多くのキャラクターの価値観を想像して疑似体験をすることで、いざ弱ったときにどれだけ自分を客観視できるかどうか。甘い罠から自分を守る術は、冷静な眼差しと異なる価値観で動いている人がいるという想像力だ。

 その想像力を一切止めてしまっているのが、茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)だ。前時代的な幸せの呪縛にとらわれていた太郎は、この事態に最も動けずにいる。早々に離婚を決めた真弓に対して「たった1度の浮気で」と定型文のような言葉を吐き捨てるのが精一杯。モラハラ夫らしい発言も、以前のような自信は感じられない。それは、夫として正解だと信じてきた行動の先に、夫婦の崩壊があったなんて想像もしていなかったからだろう。決まった正解を説く側の古いタイプの教師でもある太郎にとって、正解を見失うという動揺は計り知れない。

 自分で自分の幸せを導くということ。そのためには、これまでとらわれてきた何かを壊す必要もある。「前へならえ」では通用しなくなった現代は、ある意味でみんなが喪失感を抱えている。多くの選択肢があるからこそ、自分の選択が最善だったのかと迷う。そうではない道を選んだパラレルワールドに思いを馳せて、現実に寂しさを感じる。それは多くの幸せを選べる自由を手に入れた副作用だ。秀明や綾子が抱えていた寂しさも当然のこと。寂しくない人なんていないのだ。結婚や離婚が、その寂しさとの闘いを終えるゴールだと思ったら大間違いだと、このドラマを観て思う。むしろ寂しさを知ってからが面白い。人とつながる歓びを知れるのだから。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』
TBS系列にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:中谷美紀、玉木宏、ユースケ・サンタマリア、木村多江、駿河太郎、笛木優子、高橋メアリージュン、藤本敏史(FUJIWARA)、トリンドル玲奈
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫刊)
演出:平野俊一
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS
(c)TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/anaie/

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