“おっさんの恋愛”はなぜこんなに切ない? フランクな作風が功を奏した『おっさんずラブ』

『おっさんずラブ』のフランクな作風

上司と部下の関係性の複雑さを描く

 本作に対する批判として、仕事にかこつけて春田と会おうとする黒澤部長のやり方はパワーハラスメントなのではないか?というものが多い。職場で良好だった上司と部下の関係が、上司の恋愛感情によってぐちゃぐちゃになって、仕事を奪われてしまうことの苦しみは、おそらく女性の方が理解できるのではないかと思う。

 ドラマ化もされた東村アキコの漫画『主に泣いてます』(講談社)では、美人すぎてどこの職場にいっても男に惚れられて仕事を辞めざる負えない女性の姿が描かれていたが、『おっさんずラブ』のような形で描かれると、男性でもよく理解できる。

 一方で黒澤部長の苦しみも、とても理解できる。年齢的にも役職においても立場が上のものが部下に恋してアプローチするということは、どんなに気をつけても相手に影響を与えてしまい、ともすれば仕事それ自体を奪ってしまう。本人がどれだけ誠実に対応しようとしても、自分の意思を示すだけで大きな影響力を持ち、パワーハラスメントとなってしまうのだ。

 この世に、愛する人を傷つけてしまうこと以上に辛いことはない。黒澤部長は自分が告白したことで、春田を傷つけてしまい、このままだと、彼の仕事を奪い、人生を壊してしまうことになるかもしれないということに気づいたのだろう。だから身を引いたのだ。

 第5話では春田と牧の関係が急展開しそうだが、このまま黒澤部長は春田への未練を断ち切って、元の上司と部下の関係に戻れるのか。それとも、恋の炎が再び燃え上がるのか? 黒澤部長を見ていると、おっさんのラブとはこんなに切ないものなのかと身につまされる。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
土曜ナイトドラマ『おっさんずラブ』
テレビ朝日系にて、毎週土曜23:15〜放送
出演:田中圭、林遣都、吉田鋼太郎、内田理央、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉、眞島秀和、大塚寧々ほか
脚本:徳尾浩司
音楽:河野伸
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ) 、松野千鶴子(アズバーズ)
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
制作著作:テレビ朝日
(c)テレビ朝日
公式サイト:http://www.tv-asahi.co.jp/ossanslove/

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