☆Taku Takahashiが語る、『ウエストワールド』シーズン2への期待 「何かを発明できることこそが、人間の進化」
作り手も受け手もリテラシーが上がりきっている
ーーTakuさんの未来や最新テクノロジーへの強い関心っていうのは、m-floの作品でも初期からずっとうかがえましたけど、そこで描かれていたのは基本的には明るくて楽観的なビジョンだったと思うんですよ。その一方で、『ウエストワールド』が描いているようなテクノロジーのダークで悲観的な側面についても、とても敏感ですよね。その二つの方向性は、自身の中でどのように位置付けられているんですか?
Taku:「テクノロジーが怖いから、そっちに行くのはやめよう」とは思わないんです。「そっちに行くけれど、その怖さは意識しておかなくちゃいけないんじゃないかな」という考えで。もっと言うと、テクノロジーをツールとして使い続けていくという意識をずっと持ち続けていれば、テクノロジーに人格が生まれるようなことはないと思うんですよ。でも、そこでテクノロジーに頼りきっちゃうのが人間の本質かもしれなくて、そうすると、気がついた時には支配されているようなことにもなるかもしれない。そういう危機感はありますね。『ウエストワールド』でも、アーノルドやフォードのような技術者は「これ以上、人間が進化することはない」みたいなことを言ってますけど、僕は彼らこそが進化を体現していると思っていて。つまり、何かを発明できることこそが、人間の進化だと思うんですね。そこの可能性はずっと信じていたいなって。
ーーなるほど。
Taku:『ウエストワールド』のおもしろいところは、もちろん作品に張り巡らされたミステリーを読み解いていくカタルシスもあるんですけど、めちゃくちゃ切羽詰まった、追い詰められたような状況で、登場人物たちがどんな選択をするのかっていうところなんですよね。その個々の選択に、それぞれのキャラクターの哲学があって、人間性があって、生き方がある。自分がいろんなドラマを夢中になって見る一番の理由は、そうやって人々の選択する姿を見たいからなのかもしれない。そういえば僕、じゃんけんが好きなんですよ。
ーー「じゃんけん好き」って珍しいですね(笑)。
Taku:じゃんけんも選択じゃないですか。グーを三回続けて出した後に、もう一回グーでいくか、それともそこでパーかチョキにするか。そういう人間の駆け引きとか騙し合いみたいなものに興奮するんですよ。そこにつながってるのかもしれません。人が何かを選択すること、それ自体がおもしろい。
ーー(笑)。
Taku:あと、僕は緻密に作られたものが好きなんです。
ーー『ウエストワールド』のような最先端のアメリカのドラマって、すべてが気が遠くなるほど緻密にできてますよね。
Taku:そう。今のアメリカのドラマのすごいところって、視聴者からつっこまれることに対して、徹底的に対策を練って、どこからもつっこまれないようにしているところだと思うんですよ。優秀な作り手が視聴者から絶対につっこまれないような作品を作って、それによって視聴者のリテラシーも上がっていく。その相互作用で、作り手と視聴者の双方のリテラシーがどんどん上がっているような状況で。
ーー本当にそうですね。
Taku:映画派かドラマ派かって言われたら、自分はドラマ派だって今ならはっきり言えるんですけど、それはドラマの方が背景設定もキャラクター設定もしっかり作られているからなんですよ。というか、もうある程度の数の登場人物が出てくる作品でそれをしっかりしようと思ったら、2時間じゃ絶対に収まらないところまで作り手も受け手もリテラシーが上がりきっている。
ーー実際、映画の時間もどんどん長くなってますしね。
Taku:英語でLazy Script(怠けた脚本)っていうんですけど、そういう矛盾だらけの脚本がアメリカのドラマではもう許されなくなってきてますよね。きっと僕は、監督の仕事と脚本家の仕事だったら、脚本家の仕事の方により強く感心するタイプなんだと思います。
ーー本当にTakuさんって「ドラマ好き」をそのまま体現してますよね(笑)。
Taku:エンターテインメント・ビジネスの構造が日本とは全然違うんですよね。アメリカの場合、優れた脚本家から、そのままプロデューサーになっていくというキャリアの道があるじゃないですか。特にドラマの場合、脚本家の方が監督よりも力があるように思えるのは、それも大きいのかなって。
ーードラマが映画に対して優位性を持つようになったのも、そのシステムの方が時代にフィットしてきたからかもしれません。ごく一部の超大作映画や、作家性の極端に強い監督の映画はまた別ですけど。
Taku:あと、ドラマって、映画以上にチームで作っていくじゃないですか。今は個人的な表現よりも、優秀な個人が集まってチームで作っていく表現の方が強い時代なんだろうなって。日本でそれができているのは、実写よりもアニメの世界ですよね。実写の場合、どうしても有名なタレント中心に作られる作品が多いですからね。それでどうしてもイージーな方に流れちゃうんですよね。
ーーイージーでレイジー。本当におっしゃる通りです(笑)。最後にちょっとAIの話に戻ると、AIって、もう実は気がつかないうちに僕らの生活を取り囲んでるじゃないですか。音楽や映像のサブスクリプションサービスやECサイトのオススメ機能も、数年前と比べて、どんどんビッグデータやらディープラーニングやらの精度が上がってきている。さっきTakuさんは「ツールとして使い続けていくという意識」を持っていれば、人間の主体性は奪われないんじゃないかと言ってましたけど、本当に大丈夫だと思いますか?
Taku:でも、そういうものがない時代にも、主体性のない人はずっといたじゃないですか。
ーー雑誌に書いてあることをそのまま鵜呑みにする人とか?
Taku:そう。もともと過半数以上の人はそういう感じで。それが雑誌のオススメからアルゴリズムによるオススメ機能に変わってきただけなんじゃないかなって。その一方で、もともと僕らみたいにやたらとこだわりが強い人がいるっていうのは、この先も変わらないんじゃないかな。「自分の普通は世の中の普通じゃない」ってことは、昔からよく思い知らされてきてるので(笑)。
ーーグゥの音も出ない正論ですね。
Taku:僕らが思っている以上に、世の中の人って受け身で。カート・コバーン(英語発音:カート・コベイン)も《Here we are now, entertain us》(俺たちはここにいる。さぁ、楽しませてくれ)って皮肉を込めて歌ってたじゃないですか。政治に対してもそうだけど、放っておいても国が何かを自分のためにしてくれるとか、放っておいても国連が世界平和に機能しているとか、そういうことを自分がぼんやり思ってるかというと、そんなことはまったくないので。だから、『ウエストワールド』の世界じゃないですけど、何事も、気がついた人から何か行動を起こしていくことが大切なんじゃないかな。
(取材・文=宇野維正/写真=池村隆司)
■放送情報
BS10 スターチャンネル 海外ドラマ『ウエストワールド シーズン2』
5月24日(木)より毎週木曜よる11:00~ほか<日本“最速独占”放送>
『ウエストワールド シーズン2』 最新予告編&インタビュー映像公開中
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