狂った野獣=小林勇貴の狂い咲きが始まるーー『全員死刑』を商業映画デビュー作に選んだ理由

小林勇貴、なぜ『全員死刑』が初商業作に?

 そういえば、40年近く映画を撮っていない長谷川和彦が連合赤軍事件を映画化したい理由にこんなことを言っていた。「実際の行為の最中に、懺悔したり回想しながら行為する人間はいない(…)『同士殺し』なんて行為の中には、快感もあれば正義もあったに違いない。それを映画でまるごと描けば、必ず可笑しいはずでね。可笑しくて、哀しいはずなんだ」(『映画芸術』1998 春号)。結局、長谷川は映画化できないまま現在に至っているが、この構想に最も近い映画は、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』ではなく、『全員死刑』ではないかと思う。〈人を殺す〉という行為が、肉体労働であり、滑稽なコメディになるということに、小林勇貴は自覚的だ。

 前述の笠原和夫は、実録映画について、こんなことも言っている。「実録というのは、マヤカシや悪フザケが堂々とできる――ということです。そんなことが?――といわれるようなとっぴな設定でも、実録ですから、といえば、パスしてしまう」(『われわれはなぜ映画館にいるのか』小林信彦 著/晶文社)。そう、優れた実録映画は、事実に縛られるのではなく、実録であるがゆえに自由を獲得できる。小林勇貴が商業映画デビュー作に『全員死刑』を選んだ理由も、そこにあるのではないか。

『全員死刑』より (c)2017「全員死刑」製作委員会

 実録映画と言えば、東映が実録路線時代の熱気を取り戻すべく製作した『孤狼の血』(5月12日公開)の取材で白石和彌監督にインタビューした際、これがヒットして再び東映で不良性感度に満ちた作品が次々作られて欲しいと語っていたが、最後にこう付け加えていた。「日本は人材も豊富で、『全員死刑』を撮った小林勇貴っていうのもいますから」。これが、そう冗談とも思えないのは、石井岳龍、白石和彌と、日活で抜擢された監督が東映で暴れるという伝統が日本映画史には脈々と受け継がれているからだ。個人的に小林勇貴には、時代劇、戦争映画に加えて、関東大震災時の朝鮮人虐殺や、連合赤軍の同士粛清など撮ってほしい題材が幾らでもある。狂った野獣=小林勇貴の狂い咲きがもう始まろうとしていることは、この初期作品群を観れば納得するはずである。

■モルモット吉田
1978年生まれ。映画評論家。「シナリオ」「キネマ旬報」「映画秘宝」などに寄稿。

■リリース情報

『全員死刑』
5月2日(水)DVD発売(TSUTAYA先行レンタル)
監督・脚本:小林勇貴
原作:鈴木智彦『我が一家全員死刑』(コアマガジン/小学館文庫刊)
脚本:継田淳
出演:間宮祥太朗、毎熊克哉、六平直政、入絵加奈子、清水葉月、落合モトキ、藤原季節、鳥居みゆき
販売元:アルバトロス株式会社
レンタル販売元:カルチュア・パブリッシャーズ
(c)2017「全員死刑」製作委員会

 

 

『ヘドローバ』
5月2日(水)DVD発売(TSUTAYA先行レンタル)
監督・脚本・撮影・編集:小林勇貴
出演:木ノ本嶺浩、ウメモトジンギ、一ノ瀬ワタル、洪潤梨竜のり子、望月卓哉、住川龍珠、品川ヒロシ、板尾創路
販売元:アルバトロス株式会社
レンタル販売元:カルチュア・パブリッシャーズ
(c)VICE MEDIA JAPAN Inc.

 

 

 

『逆徒』
5月2日(水)DVD発売(TSUTAYA先行レンタル)
監督・脚本・撮影・編集:小林勇貴
出演:赤池由稀也、梅本佳暉、中西秀斗
販売元:アルバトロス株式会社
レンタル販売元:カルチュア・パブリッシャーズ
(c)小林勇貴

 

 

 

 

『NIGHT SAFARI』
5月2日(水)DVD発売(TSUTAYA先行レンタル)
監督・脚本・撮影・編集:小林勇貴
出演:赤池由稀也、小林元樹、石川ボン
販売元:アルバトロス株式会社
レンタル販売元:カルチュア・パブリッシャーズ
(c)小林勇貴

 

 

 

 

『Super Tandem』
5月2日(水)DVD発売(TSUTAYA先行レンタル)
監督・脚本・撮影・編集:小林勇貴
出演:大石淳也、荻田大輔、石川ボン
販売元:アルバトロス株式会社
レンタル販売元:カルチュア・パブリッシャーズ
(c)小林勇貴

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