T・スコットに通じるJ・コレット=セラの職人芸 『トレイン・ミッション』に学ぶ映画の作り方

松江哲明の『トレイン・ミッション』評

 僕はトニー・スコット監督が大好きだったのですが、僕にとっては80点満点が期待されるようなジャンル映画を100点にしてしまう監督でした。『トゥルー・ロマンス』のエンディングを変えてから何かが吹っ切れたのかしら、と勝手に想像しているのですが、僕はコレット=セラ監督も、トニー・スコット監督に通じるものがあると思っています。あえて100点満点を狙いにいっていない戦い方が。観客に娯楽を提供しつつ実験を恐れない演出や、最高傑作ではなく作品ごとのベストを探す姿勢は、作家を育成しがちな映画学校等では教えてくれませんが、これも監督を続けるための方法のひとつです。僕はこういう人こそ「職人」と呼ばれるべきだと思うのです。

 リーアム・ニーソンとは本作で4回目のタッグですが、今後もこのコンビは続けてほしいです。「またこのコンビ?」と思われるかもしれませんが、本作はそれ自体がある種の“仕掛け”になっていたので。むしろ、監督がリーアム・ニーソンの引き出しをどんどん増やしている印象です。飛行機と電車をやったので、次はバスか船でしょうか(笑)。『スピード』は『2』で水上を舞台にして大失敗しましたが、コレット=セラ監督ならばスピード感を必要としないサスペンスを見せてくれるのではないかと期待します。『ロスト・バケーション』で「動けない」状況でも面白い映画を作れてしまったのですから。

 コレット=セラ監督の映画をオススメしたいのは、彼の作品を観ると「歴史」が分かるからです。ワンショットで撮るべき場面や大胆なアングルを採用するカット割が混在するのも素晴らしいですが、それが生かされるのは、ポスターを見た瞬間にある程度の内容が分かるような”ジャンル”を選んでいるからだと思います。そして新作なのに古典の匂いがするのは最新の技術を駆使しつつも映画的な見せ方を忘れないからでしょう。『トレイン・ミッション』には監督の力量がこれでもかと詰まっています。初めて観た人はきっと、次の新作までの間に旧作を観たくなることでしょう。びっくりさせられる作品がたくさんありますよ。

(構成=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』、2017年には『山田孝之のカンヌ映画祭』の監督を山下敦弘とともに務める。最新作は山下敦弘と共同監督を務めた『映画 山田孝之3D』。

■公開情報
『トレイン・ミッション』
全国公開中
監督:ジャウマ・コレット=セラ
出演:リーアム・ニーソン、ヴェラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、サム・ニール、エリザベス・マクガヴァン、ジョナサン・バンクス、フローレンス・ピュー
提供:ポニーキャニオン・ギャガ
配給:ギャガ
原題:The Commuter/2018/アメリカ、イギリス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/105分/字幕翻訳:伊原奈津子
(c)STUDIOCANAL S.A.S.
公式サイト:gaga.ne.jp/trainmission

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