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松江哲明の“いま語りたい”一本 第26回

松江哲明の『マンハント』評:『HiGH&LOW』に通じる、観客が“補完”する魅力

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 ジョン・ウー監督の作品は、『男たちの挽歌』をテレビ放送で観たのが一番最初だったのですが、あまりに面白くてびっくりしたのを覚えています。チョウ・ユンファの2丁拳銃とスローモーションの格好良さに痺れましたね。すぐにレンタルビデオ店に行って、片っ端からジョン・ウー作品を借りていきました。ウー監督を制覇すると、さらに『男たち』『挽歌』『狼』『友』と付くものまで。当然、香港ノワールが流行であった以上、イマイチな作品も多々ありましたが、それ以上に「こんなジャンルがあったのか!」と驚かされました。

 本作は、ジョン・ウー監督作品をずっと追いかけてきた方にとっては、どこか懐かしく、初めて観る方にとっては「なんじゃこりゃ」と面食らう可能性もありますが、過剰な映画であることは間違いありません。

 原作は、西村寿行さんの『君よ憤怒の河を渉れ』。日本では佐藤純彌監督、高倉健主演で映画化されていますが、この作品は「ハリウッドに負けないエンターテインメント大作を作るぞ!」という、当時の製作陣の熱い心意気を感じる作品でした。市街地に馬が出てくるなど、リアリティを逸脱した描写もありますが、圧倒的なスケール感が魅力的な1本でした。本作はリメイクではありませんが、“エンターテインメント魂”は見事に継承されていると思います。

 日本で撮影をしているはずなのに、そこが日本ではないような異国感。そして俳優たちの演技の統一性のなさ。選びに選び抜いて場所を見つけたんだろうなというロケ撮影がある一方で、壊されるのが前提となっているかのようなセット撮影。脚本の構成も粗いっちゃあ粗いんですが、それもアクションを最優先してるからだと思います。でも、欠点を指摘して悪口を言いたいわけではなく、そんなバラバラのものが不思議と噛み合い、エンターテインメント作品に昇華されている。そこにはジョン・ウー監督の「お客さんを楽しませたい」という“活劇魂”が芯として通っているからです。本作はアクションを重ねることで話が進んでいきます。だから、観客が置いていかれる感覚もあることは否定しません(笑)。だけど、ストーリーよりも優先されているものが”アクション”です。僕はレンタルビデオで借りたあの頃のパワフルな香港映画たちを思い出さずにいられませんでした。

 ジョン・ウー監督は日本映画への愛を公言していますが、かつての東映ヤクザ映画や、小林旭さんの日活アクション映画への影響が、初期作品にはありありとみることができます。『男たちの挽歌』は、日本映画で当時描かれにくくなっていた“仁義”や“男同士の友情”を浮かび上がらせたからこそ、日本のファンにも絶大な支持を受けました。香港ノワールと宣伝された一連の作品がレンタルビデオで人気だったのは、どこか「懐かしさ」があったからではないでしょうか。逆に僕は過去の日本映画を知るきっかけにもなりました。レンタルで一緒に借りたりもして。

 ジョン・ウー監督は『男たちの挽歌』から描いているものは大きくは変わらないのですが、時代の価値観は変わってきました。全世界に影響を与え、ハリウッドだけでなく日本でもリメイクされた2002年公開作『インファナル・アフェア』は、物語だけ抜き出せば、ジョン・ウー監督の『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』とそっくりなんです。トニー・レオンが潜入しているという点でも。しかし、正義か悪かの世界ではなく、そのどちらにも振り切れない“グレー”な世界を描いていました。クリストファー・ノーラン監督作『ダークナイト』が象徴的でしたが、単なる勧善懲悪の物語はもう受け入れられなくなってしまったことが大きいと思います。もちろん、かつての日本映画や、ジョン・ウー監督作品が、“単純”なものだったとは言いません。でも、人々が求めるものは、現実に起こりうるような、より複雑化した世界観でした。

      

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