イケメンは崩してなんぼ! 4つのパターン別に1月クールドラマを振り返る

イケメンキャラ別に1月期ドラマを振り返る

 日頃、テレビドラマや映画の取材をしている筆者。特に最近は4月改編期ゆえにテレビまわりの仕事が忙しい。バタバタと取材に駆けずり回っていると、洋画の宣伝をしている人からこう言われた。

「えっ。テレビの取材もしているの。でも、ドラマって見るのしんどくない? よくそんなにたくさん見られるね」

 不意を突かれたのでリアクションできなかった。おっしゃりたいことは分かる。客観的に見れば、アカデミー賞の候補に挙がるような海外の映画はもちろん、アメリカの地上波ドラマに比べても、日本のドラマはエンタメとしての体力がなく、ありきたりなパターンに陥りがちで“ハズレ”も多い。ハズレばかりで見続けるのがしんどく、死んだ魚の目をして無の境地でテレビの前に座り続ける時期もある(たいてい7月クール)。

 しかし、この1月クールは決して「しんどく」なかった。“爆死”と揶揄されるような視聴率を取ってしまったドラマもいくつかあり、全体的に盛り上がっていたとは言えないが、俳優たちの演技が面白く、これまでのイメージを覆すものが多かったからである。

 もともとイケメンと呼ばれる二枚目俳優の役どころは、学園の王子様、フレッシュな新社会人、若手教師などが中心。ちょっとシャイだったりひねくれていたりはするが、基本的に真面目な人間で反社会的ではない。女性に対しても最初は上から目線だとしても結末を見ればちゃんと誠実な男に成長している。しかし、かっこいい彼らがかっこいい男を演じ続けても、見ているこちらは飽きてしまう。演じている本人たちも決まったパターンを踏襲するのに疲れてしまうこともあるだろう。その意味でこの1月クールは、演じる人にも見る人にとっても刺激的でウィンウィンの役どころが多かった。そのキャラクターを4つのパターンに分類して、振り返ってみる。

パターンA:ミドルエイジの愛されキャラ爆誕

『アンナチュラル』(TBS系)の井浦新/中堂系役
『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の木村拓哉/島崎章役

井浦新『アンナチュラル』より (c)TBS

 全男性キャラクターの中で個人的に最も萌えたのが、危険な法医学者・中堂。解剖台で仮眠をとったり、オフィスで寝泊まりしていたりというアニメ的なキャラの立ち方や、ハスキーボイスで「クソ」を連発する不用意さも萌えポイント。一見、どこの職場にもいる、えらそうでひねくれた中年男だが、石原さとみ演じるミコトを始めUDIラボメンバーにそれを跳ね返す強さがあり、突っ込まれまくるのがよかった。松重豊演じる所長にも「中堂さんがこれまでにない素早い動き!」と茶化されるような愛でられ方をする。井浦新の役柄としては、『コントレール~罪と恋~』(NHK総合)でもそうだったように、過去に人が死んだ、人を死なせたという重いトラウマを抱えているのだが、中堂は正義を信じていないゆえに迷いがなく強い。そんなダークサイドまっしぐらの中堂をミコトたちがギリギリで引き戻すという展開に萌えた。

 『BG~身辺警護人~』の木村拓哉は、自分の力をひけらかさず進んでリーダーシップは取らないけれど実はすごくできる男というこれまでのパターンを踏襲しつつ、中年の情けなさを加味。斎藤工と間宮祥太朗という自分より若いイケメンをチーム内に配した潔さも好感が持てたし、子供が中学生の息子という設定も効いていた。「パパはすごい」と父親のファンになってくれる幼い娘や息子より、反抗期の息子は批判的精神を持って父親を見るからだ。そこにスーパーヒーローではない主人公の人間らしさが出ていた。女性に対するモテは健在のようでいて、最後に石田ゆり子演じる政治家が“吊り橋効果”から覚め、「やっぱ恋じゃなかった」とばかりに去っていく展開は絶妙。前作『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)でもヒロインと結ばれなかったが、しばらくは名作映画『カサブランカ』におけるハンフリー・ボガートのポジションが続きそう。

パターンB:モラハラ男でどSキャラ炸裂

『きみが心に棲みついた』(TBS系)の向井理/星名漣役
『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)の中村倫也/井筒渡役

向井理『きみが心に棲みついた』より (c)TBS

 「怖い怖い!」とTwitterなどでリアルタイム視聴を賑わせたのがこの2人。向井理はこれまで高飛車な上から目線の男を演じることはあっても、女性に実際にダメージを加えるモラハラ男を演じることはなかった。しかし、今回演じた星名は、ヒロインを裸で歩かせたり下着姿で歩かせたり、「好きです」とばかりにアプローチしてきた部下をパクっと食ってしまったりと、とにかく極悪非道。「向井くん、よく引き受けたな~」と感心するほどの悪魔のような役だった。しかし、星名が美しい外見(整形済)を利用して女性を思うままに操る様、少年時代までの体験で歪んでしまったという弱い面を見せる演技は彼の新境地と言えるのでは。

 『ホリデイラブ』の中村倫也は、『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)のまぬけなおまわりさんと同一人物とは思えないほどの変貌ぶり。妻の不倫を知ってキレまくるエリートサラリーマンになりきっていた。タレ目で童顔の彼にこの“冬彦さん”ポジションを演じさせたキャスティングがグッジョブ。妻役の松本まりかとともに「俺たちは嫌われに行くぞ」と意気込んでいたということだが、松本の怪演もあいまって完全に主人公夫婦を食ってしまっていた。最終回では、自分がモラハラ夫だったから妻を狂わせたということをきちんと反省し、脱“冬彦さん”。再婚を目指しけなげに婚活する姿には思わず胸キュンしてしまった。

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