映画史に残る圧巻の5分間! 『坂道のアポロン』から感じる“映画の力”

『坂道のアポロン』から感じる“映画の力”

 お互いを唯一無二の存在として、好きなものに没頭する日々が、ふたりの不器用な恋をきっかけに不協和音を奏ではじめる。もともと性格の異なるふたりは、簡単にすれ違ってしまう。薫が良かれと思って気を使えば千太郎が傷つき、千太郎が強がれば薫が傷つく。もともと、ひとりだった……またひとりに戻るだけだ。そんな友情のヒビを埋めるクライマックスの文化祭のジャズセッションは、映画史に残る名シーンといっても過言ではないだろう。吹き替えなしの5分間。この映画のために猛特訓をした薫=知念と、千太郎=中川の実演奏は、何度でも見たくなる。知念の動きに合わせようと必至に追う中川の力強い目、その気持ちに応えるべく軽やかに鍵盤の上を踊る知念の指。楽器を演奏しながら演じるという俳優の役目を果たしながら、どこか相手のために練習を重ねてきたという思いがここで爆発したのではないだろうか。そこには、1960年代を舞台にすることでどこかファンタジーのように見ようとしていた、照れくさくなるほどのピュアな友情が、1990年代生まれのふたりの間にもリアルに築けることを証明するようなシーンだった。

 時代は変われど、私たちの中にある熱い感情は普遍的なものなのかもしれない。友情や恋、自分なりの居場所……いつだって私たちも青春のきらめきに近いものを見つけられるような気がしてくる。そのとき、まずこの映画がお気に入りのひとつになっていることだろう。

(文=佐藤結衣)

■公開情報
『坂道のアポロン』
全国公開中
出演:知念侑李、中川大志、小松菜奈、真野恵里菜、山下容莉枝、松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.)、野間口徹、中村梅雀、ディーン・フジオカ
監督:三木孝浩
脚本:高橋泉
原作:小玉ユキ『坂道のアポロン』(小学館『月刊flowers』FCα刊)
製作幹事:アスミック・エース、東宝
配給:東宝=アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、C&Iエンタテインメント
(c)2018映画「坂道のアポロン」製作委員会 (c)2008小玉ユキ/小学館
公式サイト:http://www.apollon-movie.com/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる