三木孝浩が語る、ティーンムービーにとどまらない『坂道のアポロン』の挑戦 「台湾青春映画の熱量に近い」

三木孝浩が語る、『坂道のアポロン』の挑戦

「“映画作家”よりは“映画職人”になりたい」

――構成や結末など原作とは違う部分もありますが、基本的には原作に忠実な作りになっていますよね。映像化するにあたって、最も意識したことはなんでしょう?

三木:原作からは、薫と千太郎のいわゆる“友情を超えたもの”、“友情以上の結びつき”を感じたので、映画でもそれを表現したいと思いました。薫と千太郎、それぞれが“ここにいてもいい理由”を求めていて、それをお互いが補い合っている。そんな2人を律子が嫉妬しつつも微笑ましく見つめている雰囲気は、これまでのティーンムービーにもない空気感だったので、そこはかなり意識しました。

――薫と千太郎の友情の描かれ方は、原作同様まるで恋愛関係のようでもありました。

三木:そこに関しては、そこはかとなく漂う感じを現場でも意識しました。普通は男同士で座ったり話したりしない距離感や、出会いの瞬間にスローになる感じなどがそうですね。完全に女の子が男の子に惚れる瞬間の演出みたいな(笑)。薫と律子が出会うシーンでは音楽をのせていないのですが、薫と千太郎が出会うシーンでは、あえて音楽を流したりもしています。

――そんな2人の関係性を見つめる律子を演じた小松菜奈さんとは、長編映画では『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』に続いて2作目のタッグです。

三木:観客の方々は、薫と千太郎の関係性を律子を通して見るわけでもあるので、その視点だったりリアクションだったりと、律子はものすごく重要な役どころなんです。菜奈ちゃんは『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』でご一緒したときに、リアクションが本当に素晴らしい女優さんだと思いました。作品自体はファンタジーで、ものすごく荒唐無稽な話なんですけれど、菜奈ちゃんの相手と向き合ったときのセリフの受け取り方や感情の揺れの表現によって、観客の方々はリアリティを感じてくれたと思いますし、ファンタジー設定を飲み込みやすくしてくれました。僕は特に菜奈ちゃんのリアクションの部分での芝居をとても信頼していたので、今回もお願いすることに決めたんです。

ーー小松さんは「三木監督の作品のキャラクターはすごく難しい」と語っていました。

三木:確かに、本当に難しい役を頼んでいる印象はありますね。受けの芝居は、どうしても役者さんに負担がかかってしまう部分があるので。だけど、それほど信頼している女優さんということなんです。ヒロイン役で同じ女優さんとご一緒するのは、菜奈ちゃんが初めてですから。

――作品の中でも重要なシーンのひとつ、薫と千太郎が文化祭で演奏するシーンでは、監督自らカメラを回したこともあったそうですね。

三木:文化祭での演奏シーンは本当にライブを撮っているような感覚で、2人の演奏を見ていたら自分も参加したくてしょうがなくなってしまったんです。もともと僕は音楽業界の人間で、ライブ撮影などでは自分でカメラを回してもいたので、そのセッションに自分も加わりたいと思って。それで最後の最後に、1回だけカメラを回させてほしいと、ただ自己満足のためにトライさせてもらいました。自分は全く楽器を弾くことができないのですが、カメラを回していたときは、みんなと一緒にライブを作っているような、一緒に音楽を奏でているような気分になれました。

――ちなみにそれはどのカットですか?

三木:ピアノを弾いている知念くんの顔と手元をタイト目に撮っているカットです。文化祭のシーンは2日間かけて撮影していたので、2人ともヘロヘロになっていましたが、僕はなんならもう1日ぐらい撮っていたいと思うぐらい幸せな時間で。現場であんなに終わらないでほしいと思った撮影は初めてのことでした。

――三木監督は数々の原作ものの映画化を手がけて成功を収めていますが、その秘訣はなんだと思いますか?

三木:たとえば2時間の映画で原作の全てを収めることはできないので、原作者の先生が何を描きたかったのかを見い出すことが大事だと思っているんです。それが物語なのか、キャラクターなのか、テーマなのか……。そこさえ外さなければ、原作ファンのみなさんにも面白いと言ってもらえる作品を作れる気がしています。

――三木監督作品に出演したキャストの方たちが、声を揃えて「現場がすごく明るくて楽しい」とおっしゃっていて、そこにも何か秘密があるように感じます。

三木:作品にもよるとは思うんですけれど、今回で言えば、これだけ青春を描いたエンターテインメント作品で現場がギスギスしていたら、絶対にいいものは生まれないですし、役者の方々にも「次はどんなシーンを撮影するんだろう」とワクワクしながら臨んでもらいたいなと思っていて。特に若い子たちは、そういう素直さがそのまま表情に出るので、そこは現場で大事にしているポイントかもしれません。みんなにも楽しんでやってほしいと常に思っています。

――原作ものの映画化作品の監督が続いていますが、オリジナル作品への意欲はあるのでしょうか。

三木:求められたことに応えて、それに喜んでもらえることが自分の喜びでもあるので、自分から「これはどうでしょう」というよりは、「こういうのをやってほしい」とか、「こういうのできますか」と言われる方が頑張ろうという気持ちになるんです。どちらかといえば、“映画作家”よりは“映画職人”になりたいと思っているのかもしれません。でもどこかで、オリジナル作品をやってみたいという気持ちもあるのは事実です。いつかは挑戦してみたいと思っています。

(取材・文・写真=宮川翔)

■公開情報
『坂道のアポロン』
全国公開中
出演:知念侑李、中川大志、小松菜奈、真野恵里菜、山下容莉枝、松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.)、野間口徹、中村梅雀、ディーン・フジオカ
監督:三木孝浩
脚本:高橋泉
原作:小玉ユキ『坂道のアポロン』(小学館『月刊flowers』FCα刊)
製作幹事:アスミック・エース、東宝
配給:東宝=アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、C&Iエンタテインメント
(c)2018映画「坂道のアポロン」製作委員会 (c)2008小玉ユキ/小学館
公式サイト:http://www.apollon-movie.com/

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