なぜキョドコは嫌われてしまう? 『きみが心に棲みついた』誰もが吉岡里帆になる恐怖
「正直、どう扱っていいかわかんねぇんだよ。小川さんみたいな人初めてだから。笑ったと思ったら泣いてるし、落ち込んでると思ったら立ち直って走っていくし。振り幅が大きすぎていつも戸惑ってる」(吉崎)
「小川今日子はあなたの手に追える人間じゃない。少しでも優しくすると全身全霊でよりかかってくる。心当たりあるでしょう?」(星名)
小川今日子/キョドコ(吉岡里帆)に対して、味方になろうと模索する吉崎(桐谷健太)と、支配しようと目論む星名(向井理)。ふたりの男性の間で揺れ動く『きみが心に棲みついた』(TBS系)は、一見すると三角関係のラブストーリー。だが、本作の根本には、きっと誰にでも抱く可能性のある心の問題が潜んでいる。
“境界性パーソナリティ障害“という言葉がある。感情をコントロールすることが苦手で、人間関係に支障をきたす精神状態を指す。筆者は専門家ではないのだが「ある人を理想化してしまう」「見捨てられることを極端に恐れる」「白か黒かでしか考えることができない」「衝動的な行動を繰り返す」……と主な特徴を見ていくと、キョドコの振り幅の大きさは、ここからきているように思えた。
だがキョドコは、いわゆる障がい者として描かれているわけではない。「少し変わった子」そう呼ばれる子は、現実社会でも多く見かける。最近では「コミュ障(コミュニケーション障害)」という言葉が、日常的にも使われるようになってきた。境界性パーソナリティ障害もコミュニケーション障害のひとつだ。メンタルにおける「障がい者」か「健常者」かという境界線は、きっと私たちが身構えるほど大きな差はないように思う。むしろ、それはすごく曖昧で、行ったり来たりしているのではないか。きっと誰もがキョドコに近い不安定な自分を抱えている。
キョドコは、小さい頃から親との関係性に問題があり、著しく自尊感情が低かった。そんなとき「ありのままでいい」と包み込んだ星名を理想化したのだろう。「星名さんのために生きる」と誓う。言われるままに服を脱ぎ、男たちの前でストリップショーをしてみせたのも、嫌われることを恐れた極端な行動だ。だが、今度はその過去を知られては、吉崎に軽蔑されると恐れ、「吉崎さんのことが大好きです」と告白しながらも、「このまま嫌われる前に、サヨナラしちゃダメですか?」と関係を一方的に遮断しようとする。周囲から「あざとい」「計算高い」「めんどくさい子」と言われてしまうのは、キョドコの行動が、大多数の人が感じる“普通“を逸脱した形だから。自分が理想化した人以外からの見え方はまるで無頓着。その視野の狭さから、周囲の人間関係に問題が起こりやすいのだ。
そして、理想化した人が、好きな人かというと疑問になるのも、また複雑なところだ。どれが愛でどれが恋だとは、他人が口を挟めるものではないが、少なくともキョドコが初恋だと言っている星名への感情は、多くの人が経験するそれとは異なる。星名の言葉を借りるなら「全身全霊でよりかかり合う」共依存関係だからだ。友だちがいなかったキョドコは、星名の囲い込みによって、さらに孤独になり、自分には星名しかいないという状況に追い込まれていった。だから先輩の堀田(瀬戸朝香)から、吉崎のことを「好きな人ってわけじゃないの?」と問われても、うまく答えられない。大切な友達。自慢したいと思える友達。友達という対等な関係性から、特別な感情が発展していく……白か黒かではなくグラデーションをキョドコは初めて体験しているのかもしれない。きっと吉崎という味方がいれば、少しずつ感情が安定してくことだろう。