『ロング,ロングバケーション』は最高にゴキゲンな作品だーー老夫婦のユーモアに満ちた愛の煌めき

『ロング,ロングバケーション』の愛の煌めき

 この夫婦の姿を見ていて、ひとつの映画を思い出した。ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』だ。もちろん、あちらの2人は旅に出たわけではなかったが、本作と、ある種同じように老夫婦の“終活”を見つめた作品である。エマニュエル・リヴァ演じる妻・アンヌは、ジャン=ルイ・トランティニャン演じる夫・ジョルジュに、「イメージを損なう昔話はしないでね」と言っていたが、本作のジョンは意識混濁によりついついイメージを損なうような墓穴を掘ってしまう。

 『ロング,ロングバケーション』が終始“陽”な明るい雰囲気につつまれた作品であるならば、さしずめ『愛、アムール』は“陰”に位置づけられる作品だといえる。しかしあのラストの選択は、必ずしも悲嘆的なものだったといえるだろうか。本作でも、旅の終わりを目前にした夫婦の“ある選択”が行われるが、『愛、アムール』でのあの唯一開け放たれた窓のように、本作では澄み渡る青空がどこまでも広がっているのだ。

 この夫婦は最後の最後まで清々しい。「悲しい?」と問う姉に、何も言わずに首だけを振る弟。センチメンタルからはほど遠いラストシーン。そして夫婦のもとに集った人々の軽やかな足取りが示す通りである。

 互いに向け合う微笑みや、些細な諍い(とはいえ、あくまではたから見た他愛のなさだ)、静かに身を寄せ合う2人を見るにつけ、田舎にいる祖父母のことを思い出さだろう。この夫婦のユーモアに満ちた愛の煌めきは、2人と重なるようなすべての恋人たちに、きっと光を与える。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『ロング,ロングバケーション』
TOHOシネマズ 日本橋ほかにて公開中
監督:パオロ・ヴィルズィ
出演:ヘレン・ミレン、ドナルド・サザーランド
提供:ギャガ、朝日新聞社、WOWOW
配給:ギャガ
原題:The Leisure Seeker/2017/イタリア/カラー/シネスコ/112分/5.1ch デジタル/字幕翻訳:栗原とみ子/PG-12
(c)2017 Indiana Production S.P.A.
公式サイト:http://gaga.ne.jp/longlongvacation

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