菊地成孔の欧米休憩タイム〜アルファヴェットを使わない国々の映画批評〜 第16回
菊地成孔の『密偵』評:「日帝時代」を描くエンタメ作が凄い勢いで進化している現在って?
とまれ、本作は前述の「カタコト問題」に関しては、この一連で最も成功している
つまり、進化としての得点をあげているのだ。進化だけが進化ではない。定着と安定もまた進化の一種であり、本作の全編を流れる「もうこういうジャンル普通ですし」という安定感は、「うおー、日帝が戯画化されるまでのエンタメが!」というヒリヒリ感がフレッシュだった、たった2年前の『暗殺』から、ぐいぐい進化/安定がなされている、というのが韓国映画界の揺るがぬ事実だ。
「ナチスが出てくるコメディ」、例えば『まぼろしの市街戦』『プロデューサーズ』の如き、高い知性に基づくネクストレヴェルは目前に迫っているのか? それとも肝心なところで嘔吐してしまう作品が定番化するのか? そもそも嘔吐による吐瀉物は栄養がまだ残っている離乳食と近く、映画の実質として陽性に評価する人々も多かろう。「慰安婦人形」が可愛いキャラクター化して学生の間でバズった。という、ちょっと前のニュースが孕む「新しさ」は、こうして映画にも波及している。
(文=菊地成孔)
■作品情報
『密偵』
公開中
監督:キム・ジウン
出演:ソン・ガンホ、コン・ユ、ハン・ジミン、鶴見辰吾、オム・テグ、シン・ソンロク、イ・ビョンホン
配給:彩プロ
宣伝:アティカス
2016年/韓国/韓国語・日本語/カラー/140分/PG12/原題:密偵(밀정)
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