女囚たちは、みんな大事な何かを守っているーー『監獄のお姫さま』笑顔の裏にある愛と哀しみ
「もしタイムマシンがあったら、自分が生まれる前の時代にいきたいわ。お父さんとお母さんが絶対に出会わないように先回りして邪魔してやるの。そしたら私みたいなめんどくさい女生まれてこないし……」
火曜ドラマ『監獄のお姫さま』(TBS系)第4話。同じ時を過ごす女囚たちの絆が深まり、ワチャワチャは加速する一方で、その笑顔の裏側でそれぞれが抱えるかつての愛と哀しみが描かれた。
異なる事情から集まった女囚たちの共通点は、罪を犯しているということ。罪とはひとりでは成立しない。そこには必ず他者がいる。なかには、他者の罪をかぶって監獄にいる女も。彼女たちの過去は決して消すことはできないし、やり直すこともできない。第1話から強調されている“時間の不可逆性“。しかし、このドラマそのものが過去(2012年)と現在(2017年のクリスマスイブ)を行き来しているし、刑務所で女囚たちが楽しむ映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だ。
過去に戻れるなら、どこからやり直したいか……。きっと、多くの人が考えたことのある“もしも“。だが、仮にタイムマシンがあったとしても、彼女たちはまた同じように他者を愛して、この刑務所へとやって来るのだろう。それが冒頭の“自分が生まれないようにしたい“と言い放った、財テク(菅野美穂)が「出会ってよかったよね」というつぶやきに凝縮されているように思えた。「ケチャップが嫌いな女はいない」と断言するのも、ケチャップ味のスパゲッティに、愛された思い出が凝縮されているからだ。
群馬の小さな会社の社長娘だったという事実よりも、家族の愛に包まれていた充足感が自分をお姫さまにしていたのだろう。財テクの父が経営していた会社が販売していたのは、使い捨てカイロ、使い捨てカメラ。カイロは刹那の温もりをくれるし、カメラは忘れたくない瞬間を切り取ってくれる……愛を感じるのはいつも一瞬で、継続するのは難しいことを示唆しているようだ。
馬場カヨ(小泉今日子)は面会にやってきた夫を、姉御(森下愛子)は逃がそうとしてくれた若い衆を、財テクはビジネスがうまくいっていたころの父を……それぞれ過去を振り返ると愛を感じた瞬間の男性が板橋吾郎(伊勢谷友介)の姿で脳内再生される。それは良い思い出はリピート再生されるうちにどんどん美化されていくということなのか、それとも吾郎を拘束するほど強くなった今の自分なら過去をどうにかできたのではないかという後悔の表れなのか。
吾郎の姿から、すっかり冴えない中年男の姿に戻った夫を見て「誰?」と聞きながら「忘れないよ、パパ」と、現実から目をそむけるように突っ伏して泣く馬場カヨ。現実を受け入れることができていない=反省していない彼女の心境そのものだ。そして、夫が差し入れに持参したバームクーヘンは、名店のものらしき袋に入ってはいたが、売店の商品じゃないと受け取れない。そのやり取りを見るだけでも、夫が決して仕事のデキるタイプではないことが透けて見える。
そして、息子の公太郎が上履きのサイズがわからない話、弁当がうまく作れない話など、たわいもない話題が続く。しびれを切らした馬場カヨは、かつて夫から言われた言葉「要点まとめてから話さない?」が口をついてしまうのだった。彼にとっての要点は“離婚しよう“だ。でも、そのひとことだけではあまりにも角が立つ。“言いにくい“と感じるのは、誰を守ろうとしているのかによって話は大きく異るものだ。言葉のナイフで相手を刺す覚悟がない(罪悪感を感じたくない)自分なのか、それとも傷つけずに理解したいと願う相手なのか……。
「何か言いたいのはわかるけど、何が言いたいのかわからないのよ」姫(夏帆)の妊娠をやんわりと伝えようとした馬場カヨは、“先生“こと刑務官の若井(満島ひかり)に言葉で一蹴されてしまう。“妊娠“の文字は“蛤振“と間違えてしまうし、先生とふたりきりになるタイミングを手にするために、地道に上げてきた等級を剥奪されるような行動を取る。馬場カヨはかつてキャリアウーマンとして夫も嫉妬するほどの、仕事がデキる女だったはず。だが、これほどまでに、てんやわんやしてしまうのは、自分のことではなく、姫を守ろうとした母性の暴走。愛ゆえの強行。女囚たちは、みんな大事な何かを守って監獄にいるのだ。
「私、この子を守るためにここに来たんです」姫の予定日は7月末。雑居房にやってきた初夏には妊娠8ヶ月だっただろうに、女囚たちはドラマを見ながら「妊娠8ヶ月って! 普通だれか気づくでしょ〜」とツッコむのも笑えてくる。「あんたって本当に……お姫様だよね
」財テクは、大人になった今もお姫さまのままでいる姫に、かつての自分を守るかのごとく姫の味方になる。