成馬零一の直球ドラマ評論
全4話一挙配信中! 宮藤官九郎の遊び心全開、Huluオリジナル連続ドラマ『山岸ですがなにか』
ゆとりモンスターの山岸に焦点を当てたドラマに見える本作だが、須藤もまた、マイペースなゆとり世代だということがだんだんわかってくる。テレビ局のノベルティーグッズの服ばっかり着てくるファッションに無頓着な須藤に対し、ツッコミを入れる山岸の方が、常識があるように見える。
テレビ業界の関係者が登場し、物語と同時進行で、劇中劇が進んでいく姿は、宮藤が脚本を手がけた恋愛ドラマ『マンハッタンラブストーリー』(TBS系)を思い出させる。虚実が入り混じり、物語の力で現実を改変していくという超展開は、クドカンドラマにおいては欠かせない要素だが、『ゆとりですがなにか』はシリアスな社会派ドラマという新境地に挑んでいたためか、虚実が入り混じるメタフィクション性は影を潜めていた。そう考えると、小ネタ満載で虚実が入り混じる『山岸ですがなにか』は、むしろ、宮藤の本堂と言える作品かもしれない。
とはいえ、本作は『ゆとりですがなにか』という連続ドラマのスピンオフドラマの中で、『ゆとりですがなにか』の制作現場を描き、実在する人物として山岸が出てくるという入れ子構造のため、フィクションなんだか現実なんだが、どんどんわからなくなっていく。コメディとはいえ、こんな入り組んだ構成のドラマを、毎週15分のドラマで展開しているのだから凄まじい。
それにしても、太賀が演じるゆとりモンスター・山岸は面白い存在だ。初登場した時は、自分のペースで周囲を振り回し、説教されると逆ギレしてLINEで退社届けを出したかと思うと坂間たちをパワハラで訴えるという行動に移ったかと思うと、いつの間にか会社に復帰しているという調子のいい姿には「こいつは何なんだ?」と。亜然とさせられた。
だが、悪人かと思うとそうでもなくて、話数が進むにつれ、坂間たちとも打ち解けていく。かといって、山岸が反省して心を入れ替えたというわかりやすい場面はなく、気付いたら馴染んでいたという感じなのが、実に不思議である。もしも山岸が、心を入れ替えて良い奴になっていたら、どこか居心地が悪く感じたかもしれない。山岸が山岸のまま存在できるのが、クドカンワールドの多様性なのだろう。
須藤とのやりとりを見ていても、自己中心的ではあるが、言っていることはそこまで酷くはない。むしろ、彼なりに須藤のことが好きなんだとわかり、「山岸、良い奴じゃん」と思った。
自己中心的で調子に乗っていて、イラつくけど、どこか憎めないキャラとなり、いつの間にか『ゆとりですがなにか』に欠かせない男となっていた山岸。30代に入り人生の岐路を向かえるゆとり第一世代の今後も楽しみだが、山岸の今後がどうなるのかも、とても気になるところである。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■配信情報
Huluオリジナル連続ドラマ『山岸ですがなにか』
Huluにて全4話独占配信中
出演:太賀、佐津川愛美、猫背椿、中山祐一朗、伊達暁、黒田大輔/でんでん、柳楽優弥、松坂桃李、岡田将生
脚本:宮藤官九郎
演出:鈴木勇馬
プロデューサー:水田伸生、枝見洋子、仲野尚之
制作協力:AXON
製作著作:日本テレビ
(c)NTV
公式サイト:http://www.ntv.co.jp/yutori/special2017/spinoff/