『ひよっこ』有村架純は新しい朝ドラヒロインだ 脚本家・岡田惠和の狙いを読む

 対してみね子は、恋愛の要素も仕事の要素も薄く、不器用であまり積極的ではないヒロインとして描かれている。ロールモデルとしてはいたって普通だ。東京に出てきたのも、やりたい仕事や夢があるからではなく、行方不明の父親を探すことと、実家に仕送りをするためで、工場の仕事も洋食店の仕事も、一生の仕事にしようとは思ってなかったはずだ。

 舞台が東京の乙女寮に移って、みね子と同じように各地方からやってきた女の子がそろった時に思ったのは、親友で女優を目指している助川時子(佐久間由衣)を筆頭に全員みね子よりもキャラクターが濃くて朝ドラヒロイン的だということだ。彼女らの濃さに較べて、みね子のキャラクターの薄さは逆に際立って見えた。

 同じアパートで暮らす漫画家二人に理想の読者として「みね子様」と讃えられていたが、あれが笑いとして成立するのは「様」という言葉からみね子が程遠いからで、他の朝ドラヒロインだったら、かなり嫌味になっていただろう。

 牧野由香(島崎遥香)にお金を届けに行く場面にしても同様で、他の朝ドラヒロインだったら、自分からおせっかいを働いていて、父親との仲を取り持とうとしたかもしれない。

 こう書くと、みね子に魅力がないように聞こえるかもしれない。しかし実際は逆だ。彼女の程よい優しさは見ていて心地よく、余計なノイズとならず、普通の女の子の日常を覗き見るかのように朝ドラに入り込むことができる。

 もちろん、彼女自身の生活が決してラクではないことは執拗に描写されるみね子の給料と彼女が買い物する際に買ったものの金額を事細かに描写することで示されている。しかしだからといって、貧しさの中で健気にがんばるヒロインという風にはあまり見えないのは、お金にまつわる描写の多くがコメディとして描かれているからだろう。

 このように岡田惠和は細心の注意を払って、みね子をどこにでもいる普通の優しい女の子として描こうとしている。

 今後どうなるかわからないが、普通の若い女の子であるみね子に、余計な理想を背負わせてヒロイン様にしないこと。それ自体が『ひよっこ』の尊さだろう。朝ドラヒロインの一つの到達点である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ひよっこ』
出演:有村架純、沢村一樹、木村佳乃、羽田美智子、佐久間由衣、泉澤祐希、峯田和伸、津田寛治、宮原和、高橋來、佐々木蔵之介、古谷一行、宮本信子ほか
作:岡田惠和
音楽:宮川彬良
平成29年4月3日(月)~平成29年9月30日(土)全156回(予定)
<総合>
(月~土)午前8時~8時15分/午後0時45分~1時[再]
<BSプレミアム>
(月~土)午前7時30分~7時45分/午後11時~11時15分[再]
(土)  午前9時30分~11時[1週間分]
<ダイジェスト放送>
「ひよっこ一週間」(20分)
<総合>
(日)午前11時~11時20分
「5分で『ひよっこ』」
<総合>
(土)午後2時50分~2時55分     
(日)午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/hiyokko/

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