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上戸彩VS伊藤歩、狂気の対決に戦慄! 地獄へ堕ちる不倫映画『昼顔』が観客の心をえぐる理由

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『昼顔』は、なぜ観客の心をえぐるのか

 二人が直接会話する、キッチンでのシーンは圧巻である。夫の気持ちが紗和に傾き、全てを失いつつある乃里子の手がすぐ届くところに、庖丁が収納されているのだ。ものの数秒もあれば、ホルダーから庖丁を抜き払い、乃里子は紗和の心の臓を刺しえぐり取ることが可能なのである。そんな状況で画面に包丁が映ったまま会話する光景は、身震いのするサスペンスとして機能しており、見事だ。

 本作を監督したのは、ドラマ版でもメインのエピソードを演出していた西谷弘監督である。TVドラマに軸足を置きながら、『アンダルシア 女神の報復』や『真夏の方程式』など近年の監督作に見られる、理由は分からないが何故か「覚醒しちゃっている」としかいえない、映像への鋭敏な感性と確かな演出力によって、映画マニアや批評家の間で、とくに話題になっている稀有な才能だ。とくに本作では、クライマックスのシーンにおける、闇と光の演出によって、その本領を感じることができる。

 不倫によって家庭を破壊する、紗和の行為に反発を覚える観客もいるだろう。だが本作は、そのクライマックスによって、彼女を応援せざるを得ない状況を作り出してしまう。そこにあるのは、不倫や争いという行為を、人間が本来持っている業(ごう)として、昆虫や生き物が本能によって突き動かされるように、「生きる」という最も普遍的な行動に連結させることに成功しているからである。

 作家・坂口安吾は、戦後発表した『堕落論』および『続堕落論』のなかで、日本が戦争に突入するという、間違った道を歩んでしまった要因のひとつとして、権威や世間の常識に盲従して生きる日本人の性格があると述べた。日本人の持つ道徳や固定観念が、逆に人間性を殺し、全体主義の方向へと向かわせたというのである。だからこれからの日本人は、自らを縛る道徳心を捨て、すすんで「堕落しろ」と述べたのだ。

「堕落すべき時には、まっとうに、まっさかさまに堕ちねばならぬ。道義頽廃、混乱せよ。血を流し、毒にまみれよ。先ず地獄の門をくぐって天国へよじ登らねばならない。手と足の二十本の爪を血ににじませ、はぎ落して、じりじりと天国へ近づく以外に道があろうか。」(『続堕落論』)

 『近松物語』で死に向かいながら微笑む女性も、本作で暗闇に突き落とされる紗和も、不道徳な道に進みながら、しかしそこから真実の「生きる実感」に到達するのである。かつて紗和が棒アイスをくわえながら下界を眺めたように、不倫劇を鑑賞している我々観客に対して、寿命の少ないホタルが束の間の命の光を暗闇に灯しているような、彼女が見せる凄絶な姿は、我々に「あなたは本当に生きているのか?」と訴えかけてくる。それが本作の真におそろしいところである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『昼顔』
全国東宝系にて公開中
監督:西谷弘
脚本:井上由美子
音楽:菅野祐悟
出演:上戸彩、斎藤工、伊藤歩、平山浩行
企画・製作:フジテレビ
配給:東宝
制作プロダクション:角川大映スタジオ
(c)2017 フジテレビジョン 東宝 FNS27社
公式サイト:http://hirugao.jp/

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