BOMI「えいがのじかん」第5回
BOMIの『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』評:東京に生きていることを少し愛せるようになる
BOMIが新作映画を語る連載「えいがのじかん」。第5回となる今回は、現代詩集としては異例の累計27,000部の売上げを記録している最果タヒの詩集を、『川の底からこんにちは』『舟を編む』の石井裕也監督が実写映画化した『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』をピックアップ。現代の東京の片隅に生きる若い男女の恋愛模様を描いた本作を、BOMIはどう観たのかーー。(編集部)
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色』は、これまであまり観たことがないジャンルというか、いい意味ですごく異質な作品でした。すべてを理解しようとしないほうがいい、感性で観る映画だなぁと。その瞬間瞬間にある情報を受け取るだけで楽しめるのですが、それと同時に、こういう作品が世の中にどう受け入れられるのかが非常に気になる作品でもありましたが、世間的にも評判がいいみたいですね。
私は原作者の最果タヒさんの作品がもともと大好きで。詩って、今の若い人たちにとって割と滅びつつあるものだったと思うんです。だけど、タヒちゃんは、若い人の感性で、しかもわかりやすい言葉で、確実に人の心の中をえぐってくる。“今”を言葉で切り取るのがすごく上手いんですよね。そんな言語感覚が面白くて、詩人としても革命的だなと思っていました。
なので、正直映画はどうなるんだろう……と不安になりつつも、石井裕也監督だったら「え?」という感じにはならないよなと安心している部分もあり……。で、実際蓋を開けてみると、「こういう感じできたか!」と驚きが大きかったですね。原作の言葉が最も響く形で、映画としてのストーリーに落とし込んだのではないでしょうか。画づくりやカット割りも面白くて、「これはどういうことだ?」と考えさせられる部分も結構多かった。全体的に昭和の映画かな? という感じのトーンも独特でよかったですね。
石井さんの映画って、いい意味であまり作風がないというか、誰の作品かを知らずに映画を観て、「これは石井裕也の映画だ!」とはあまりならないなって思っていて。それほど監督として幅広い引き出しを持っているにも関わらず、ちゃんと毎回愛を持って、役者さんをすごく魅力的に撮る人だなぁと。
何より、今作の池松(壮亮)さんは本当に素晴らしかったです。カッコよくもなれるし、ちょっとむさい感じにもなれる。素敵な俳優さんだなと改めて思いました。池松さんの演技って、すごく柔らかいんですよね。彼が出てきてから画面の強度が圧倒的に増した。石井さんの演出なのか、本人が考えてやっているのかはわかりませんが、捲し立てるように話すキャラクター設定や役作りも、原作の詩との繋がりが感じられました。
池松さん演じる慎二は、工事現場で働きながら、社会に適応しきれない自分にもがいている存在です。学生時代は成績優秀で、将来も有望視されていたけど、今は年収200万で工事現場で働いている。だけど、悲壮感はないんですよね。人にどう思われるかとかではなく、自分の中できちんと完結する世界がある。外との繋がりがなくても、自分が納得していればそれでいいというか。それがすごく現代を反映しているように思えました。バスを待っている人たちが、みんなスマホを眺めているシーンが冒頭に出てくるのですが、あれも完全に狙って撮っていますよね。現実世界でも実際にそうですが、改めてその光景を見せられると、本当に異様な光景だなぁと感じて。たまに、電車で携帯の電池が切れちゃって、自分だけ見るところがないもんで顔を上げて車両を見渡すとゾッとする、あの感じ。