『友だちのパパが好き』山内ケンジ監督が語る、インディーズの方法論 「何かを崩壊させたい」
「根底にあるのは“インディーズ”」
ーー確かにこれまでの監督作を振り返るとそのような一貫性が見出せます。1作目の『ミツコ感覚』から2作目の『友だちのパパが好き』までは4年という比較的長い期間が空きましたが、『友だちのパパが好き』はどのような経緯で制作がスタートしたのですか?
山内:“城山羊の会”の演劇活動でご一緒した役者の方々と映画を撮りたいなと思って書いたのが『ミツコ感覚』だったんです。『友だちのパパが好き』も同じ経緯で、吹越さんのために書きたいなと思ったのが最初ですね。2010年に『微笑の壁』という演劇に出てもらった時から、吹越さんとは何か一緒にやりたいねという話はしていて。
ーー吹越さん以外のキャストも演劇で一緒にやった方々がほとんどですよね。
山内:そうですね。基本的に人ありきで脚本を書いていくので、とにかくその俳優さんをよく知らないとダメなんですよ。それから、その人自身をモチーフに登場人物のキャラクターを作り上げながら脚本を書いていくんです。それは映画も演劇もほぼ同じです。
ーー演出的な部分では映画と演劇で違いはありますか?
山内:演出も基本的には全然変わらないです。映画も演劇もリハーサルをして、ほとんどアドリブなくやっていく感じです。僕の演劇はいわゆる“舞台っぽい芝居”ではなく、ナチュラルな芝居なので、もともとやっていた演劇が映画っぽいところもあったかもしれませんね。映画について言うと、映画にはもうひとつの演出分野があって、それはカット割りや編集などの時間や空間を操作する作業ですよね。僕はこれに関してはまだ……いや、CMでさんざんやってきてはいるんですけど、まだ決まっていないのです。
ーーまだ探っている状況ということでしょうか。
山内:これまで撮った3本の映画も、それぞれスタイルが全然違うんです。まず1本目の『ミツコ感覚』は相当カットを割っている。切り返しのカットをたくさん使っていて、カット数もすごく多い。2本目の『友だちのパパが好き』は基本的に1シーン1カット。3本目の『At the terrace テラスにて』はもともと自分がやっていた演劇が原作なので、映画として見せるためにマルチで複数のカメラでカットも細かく割っていきました。
ーー『友だちのパパが好き』ではなぜ1シーン1カットという手法をとったのですか?
山内:反動というか、どうしてもやってみたかったんです。やっぱり根底にあるのは“インディーズ”ということなんですよね。インディーズ映画だからこそできることってたくさんあって、1シーン1カットもその要素のひとつ。そういうことができるっていうのがインディーズ映画の面白さだと思うんです。ただ、何でもかんでも1シーン1カットにしてしまえばいいということではなく、1シーン1カットにする必要がある脚本でなければいけない。なので、ハネケ、クリスチャン・ムンジウ、ダルデンヌ兄弟、ホン・サンスとか観たりして、ふうんそう書いてるんだ、などと学習し、最初から1シーン1カットを念頭に置いて脚本を書き上げていきました。
ーー何人かの監督の名前が挙がりましたが、山内監督はもともとどのような映画的バックグラウンドを持っているのでしょう?
山内:影響を受けた監督はたくさんいて、ルイス・ブニュエル、イングマール・ベルイマン、ウディ・アレン、ジョン・カサヴェテスとかですね。ブニュエルはちょっと違いますが、やっぱり基本的に演劇や舞台と非常に近い人たちの作品が好きです。