松江哲明の『不思議惑星キン・ザ・ザ』評:中央線サブカルチャーに通じる“不条理コメディ”

松江哲明の『不思議惑星キン・ザ・ザ』評

 この映画がすごいのは、大ベテラン監督が大真面目に向き合って作ったというところ。新人監督が自分のやりたいことをやりきって、こんな不思議な映画ができましたという形のビギナーズラックではない。あれだけの手作りさと、ゆるーいオフビートな雰囲気をまといながら、実は細部まで計算され尽くしている。突然現れるものすごい数のエキストラや巨大なセットも、ベテラン監督だからこその手綱さばきといえるでしょう。

 SF映画って、惑星を飛び出す瞬間だったり、宇宙船がワープする瞬間だったり、移動の間がビジュアルの見せ場だったりするわけです。そこをどう描くかで作り手はみんな悩むわけですが、『キン・ザ・ザ』はその一切を省略している。余計なことに悩んでいない、この映画に流れる独特の“手作りさ”も時代を超えて観客に愛されている理由のひとつな気がします。

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 昔も今も、何か作りたい人が見るとピンとくるものがあるはず。手作りのある宇宙船や、どこまでも続く砂漠の光景を見て、「これなら自分でも作れそうだ」と思うから。絶対に世界中で『キン・ザ・ザ』に似た駄作がたくさん生まれていると思いますよ(笑)。昨年リマスター版上映がされたとき、若いお客さんが多かったというのも、納得できます。何年経っても若いひとたちがその時代、時代に見て、影響を受けているのでは。『マッドマックス』もブルース・リーの映画も、これなら金になる、マネできるという発想で次々と類似作品が作られました。結果として、それが映画の“ジャンル”を作り、映画の土壌を豊かにしてきた。『キン・ザ・ザ』もその役割を担った重要な1本と呼べるでしょう。作品の中に込められた比喩を堪能してもいいし、コメディとして観ても、男の友情物語として観てもいい。どんな不条理な状況になっても人間は変わらないと、しみじみ思ってしまう作品です。

 『キン・ザ・ザ』は、家でなんとなく流してそのまま寝てしまっても良いし、オシャレなバーで延々と流していても違和感がない。ぼーっと観ながら延々とお酒が進んでしまう、そんな“ユルい”楽しみ方もあるので、Blu-ray&DVDで楽しむのにも打ってつけの一本かと思います。

(取材・文=石井達也)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の監督を山下敦弘とともに務める。『山田孝之のカンヌ映画祭』がテレビ東京・テレビ大阪(毎週金曜 深0:52~1:23)にて放送中。

■作品情報
『不思議惑星キン・ザ・ザ』≪デジタル・リマスター版≫
監督:ゲオルギー・ダネリヤ
脚本:レヴァス・ガブリアゼ、ゲオルギー・ダネリヤ
撮影:バーヴェル・レヴェシェフ
製作:モスフィルム・スタジオ
出演:スタニスラフ・リュブジン、エヴゲーニー・レオン、ユーリー・ヤコヴルフ、レヴァン・ガブリアゼ
1986年/ソ連/カラー/デジタル/135分/1989年日本初公開・2001年リバイバル公開作品/原題:KIN-DZA-DZA 
提供・配給:パンドラ+キングレコード
(c)Mosfilm
公式サイト:kin-dza-dza-kuu.com

■販売情報
『不思議惑星キン・ザ・ザ≪デジタル・リマスター版≫』
2017年2月15日(水)発売
【Blu-ray】¥4,800+税(品番:KIXF-458)
【DVD】¥3,800+税(品番:KIBF-1462)
映像特典:オリジナル劇場予告編(日本語字幕付き)

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