映画監督が作る深夜ドラマが熱い! 『バイプレイヤーズ』『カンヌ映画祭』『銀と金』を紐解く

映画監督が作る深夜ドラマが熱い!

 今クールのテレビ東京による深夜ドラマが熱い。金曜深夜の『バイプレイヤーズ』、『山田孝之のカンヌ映画祭』、そして土曜日深夜の『銀と金』だ。

 この3作品には、映画監督が手がけているという共通点がある。深夜ではないが今思えば青山真治、中島哲也、行定勲ら錚々たるメンバーの監督たちが手がけた伝説のテレビドラマ『私立探偵 濱マイク』をはじめ、最近では『深夜食堂』、『東京センチメンタル』など新進気鋭の映画監督が手がけた作品は、従来のテレビドラマと一風変わった新鮮さと深みがある。また、1話30分(ドラマ24は40分)の限られた時間に凝縮された物語・構成は、映画とは違った形の魅力を呼び、映画ファンを唸らせている。視聴率によって作品の出来不出来を語られてしまいがちなキー局のゴールデン枠ではない、いわば「見たい人だけが見る」ドラマ枠、もしくは「仕事終わりのサラリーマン・OLが、晩酌がてらに見る」ドラマ枠という特徴は、よりその個性を際立たせる所以であると言えるだろう。

 『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』は『ワンダフルワールドエンド』、『アズミ・ハルコは行方不明』の松居大悟が監督・脚本を手がけている。また、松居の他5名がそれぞれ監督と脚本を手がけるのだが、『ウルトラミラクルラブストーリー』、『俳優 亀岡拓次』の横浜聡子も監督を担当するというから楽しみだ。

 主演は、遠藤憲一、大杉漣、田口トモロヲ、寺島進、松重豊、光石研の6人。コワモテ俳優6人がゴミ捨てジャンケンをしたりプレゼント交換をしたりする「日常」を観察できるオジサマファンには堪らないニヤニヤドラマであることに加え、主演ドラマがキー局かテレ東、BSかで揉めるといったバイプレーヤーあるある(実際にあるあるなのかはわからないがありがちな)を詰め込んだ会話を楽しめるドラマでもある。

 さらに興味深いのは、設定は名脇役6人の「中年のテラスハウス」だが、それが明らかにメタ構造であることを示唆していることだ。ほのぼのとした場面の合間に挟み込まれる監視カメラの存在、1人不在の『7人の侍』と、集められた6人、大杉漣の「この中に裏切り者がいる」という言葉。エンディングでコタツの一方に偏って寛ぐ男たちの違和感。それらは、贅沢すぎる豪華キャストの競演も相まって『そして誰もいなくなった』のようなサスペンス調の雰囲気を醸し出し、ドラマに緊張感を与えている。
 
 同じくどこまでが本当かわからない面白さを楽しめるのが、『山田孝之のカンヌ映画祭』だ。以前テレビ東京の同枠で放送された『山田孝之の東京都北区赤羽』(2015)に続いて、ドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』を手がけた松江哲明、そして物語自体に巻き込まれる演者の一人でもある『オーバー・フェンス』、『ぼくのおじさん』の山下敦弘が監督を手がけている。山田孝之がプロデューサーになり、実在の大量殺人鬼を題材に芦田愛菜主演、山下監督の映画でカンヌ映画祭の最高賞パルム・ドールを目指す設定で、ナレーションが長澤まさみというだけで衝撃的だ。

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 この物語は、山田孝之の「ゼロから作るところにいたい」という強引すぎるぐらいに純粋な熱意から始まっている。「意識してここからやっていけば多分とれますよ、本気出せば」の凄まじい精神論でカンヌ映画祭受賞の可能性を語る姿を見ていると、なんだかとんでもないものを見ている気分になってくる。もっと言えば1話で、山田が主演していた『勇者ヨシヒコと導かれし七人』の撮影風景が示されることで、ヨシヒコのキャラクターと重なりその純粋さが際立って見えてくるのだ。本当の山田孝之のことは知らないが、少なくともこのドラマにおける山田孝之は子どもに近い純粋な目で、カンヌ映画祭を、さらには映画界を見つめているのである。

 ドラマの面白さは、子どもと大人の対立構造にある。2話では山田と芦田、山下の3人が、カンヌ映画祭のことを学ぶために、パルム・ドールを2度受賞した故・今村昌平が創立した歴史を持つ日本映画大学に乗り込む。

 この物語に芦田愛菜が登場することには、そのギャップの魅力もあるが、子どもの目線で映画界を見つめる面白さがあるからだろう。実際に小学生である芦田がランドセルを背負って、小学生がよく持っているキャップ付きの鉛筆や太い多色ペンで講義の内容をメモしていることが異常に際立つのは、彼女の長い芸歴としっかりした振る舞いとのギャップだけでなく、その違和感が意図的に示されているからではないかと思う。

 特に3人が日本映画大学で東京国際映画祭ディレクター・矢田部吉彦氏の講義を聞くシーンが象徴的だ。芦田の前で矢田部が言葉に窮する。それは、小学生である彼女の前で性的な表現をすることに戸惑ったからだ。彼女が退出して彼らは安心したように映画について深く語り始める。退出した芦田の代わりに彼女のペンとノートを使ってメモをとりはじめる山下というのもまた面白い。彼のとったノートは鉛筆で書かれているせいかどこか幼く、その言葉は子どもが書くように端的だ。山下は山田に巻き込まれ戸惑う視聴者側の人間であり、映画関係者であり、時に芦田や山田の代理をする人物である。

 ここで成立するのは、子どものような山田と子どもの芦田と、子どもの代理をする山下という3人、いわば「知らない」ことを隠さずに聞くことのできる3人が、映画監督・天願大介や映画評論家・佐藤忠男などの映画界の「大人」たちに斬り込んでいくという構図なのだ。それが深夜ドラマの枠を使って行われているというのが、この極めて挑戦的な企ての面白さだろう。この先、どのような展開を迎えるのかが楽しみでならない。

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