松山ケンイチ、体重20kg増で挑んだ渾身の演技 『聖の青春』は“生き方”を問う

小野寺系の『聖の青春』評

 静養のため一時表舞台から姿を消して、実家で暮らすことになった村山は、ある夜復活を期して自室の将棋盤に駒を並べる。盤上に駒を置くパチン、パチンという音が、息子が死へ旅だってゆく足音のように、ある種の暴力性を帯びて家に響き、竹下景子が演じる母親を苦しめる。このとき村山聖は、「普通の幸せ」から離れた修羅の世界にいる。

 やりたいことをやって死ぬ。そして自分が目指す道に真摯で真剣でいること。青春映画の視野狭窄的な価値観をともなって、村山聖に限りなく同化しようとする松山ケンイチの畢生の演技は、この先鋭化されたシンプルな生き方を我々観客に突き付けてくる。村山聖よりも長い時間を与えられた、世の中の多くの人のどれだけが、果たして彼より濃い「生」を経験をしているだろうか。

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「いま僕たちが考えなきゃいけないのは、目の前の一手です」

 劇中で村山がつぶやくひとことを思い出し、そんなことを考えさせられてしまう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『聖の青春』
全国公開中
監督:森義隆
脚本:向井康介
原作:大崎善生(角川文庫/講談社文庫)
出演:松山ケンイチ、東出昌大、染谷将太 
安田顕、柄本時生、鶴見辰吾、北見敏之、筒井道隆/竹下景子/リリー・フランキー
主題歌:秦 基博「終わりのない空」 AUGUSTA RECORDS/Ariola Japan
配給:KADOKAWA
(c)2016「聖の青春」製作委員会
公式サイト:satoshi-movie.jp

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