『SCOOP!』『何者』『溺れるナイフ』ーー話題作の陰にこの人あり 伊賀大介に訊く、日本映画の「衣装」の現在

スタイリスト・伊賀大介インタビュー

「自分ができる範囲だけでも、できるだけちゃんとしたい」

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——『何者』ではリクルートスーツ、そしてこちらも現在公開中の『溺れるナイフ』では学校の制服と、そうした制服的な服のチョイスというのも難しそうですね。

伊賀:もちろん作品によりますけど、そこでもできるだけリアルなものにすることが多いですね。これは山戸監督に聞いた話なんですけど、関西の方がセーラー服の襟元の先が深いらしいんですよ。『溺れるナイフ』で、小松菜奈ちゃんの役は東京から和歌山の学校に転校しますけど、東京の学校ではお洒落な感じのブレザーを着てて、和歌山に行くと、その襟元の深い、野暮ったいセーラー服になる。丈も長くて、それを自分で短くするような気合いもない、諦めの中で生きていくという(笑)。それでも輝いちゃうところが、彼女のすごいところなんですけど。

——(笑)。

伊賀:映画で主要人物をやる役者って、基本的に美男美女だから、どうしても綺麗に映るようにしたくなるじゃないですか。そこをどれだけ抑えて、ダサくするかっていうのが重要だと思うんですよ。『溺れるナイフ』の場合、菅田将暉くんの役は、金髪だし、もう神に近いようなファンタジー的な存在なんで、『これは何着せてもええわ』って感じだったんですけど、他の役に関しては田舎の子の感じっていうのはちゃんと出さなきゃいけないと思って。田舎に引っ越してからの小松菜奈ちゃんの役の部屋着の気の抜けた感じだとか、重岡大毅くんの役の服はダサいけど中身に惚れちゃう感じとか。やっぱり、都会のダサさと田舎のダサさってまた違うんですよね。特に男の子の場合、田舎の子って本当にボンクラっぽい格好してるじゃないですか。同じ年で比べると、明らかに女の子の方が大人っぽく見える感じ。自分が衣装を担当した作品ではないですけど、『海街diary』の広瀬すずちゃんの役と、ボーイフレンドのサッカー部の男の子みたいな。

——はいはい。「えっ? この二人同級生なの?」みたいな(笑)。

伊賀:でも、あの感じって、すごくその通りだなって思って。今回の小松菜奈ちゃんと重岡大毅くんのギャップも、あの感じにちょっと近いかもしれませんね。

——今日は自分から頼んでこうして話してもらいましたが、伊賀さんの映画での仕事って、もちろん気づいている人は気づいているわけですが、あまり表立って名前が出ているわけではないし、伊賀さんも自分からそんなに語ったりしないじゃないですか。

伊賀:そうですね(笑)。

——それは、裏方の美学的な?

伊賀:それもあるし、自分から言うより、後から気づいてもらったほうが、単純におもしろいなって。

——それと、伊賀さんって本当にたくさん映画を観てますよね。映画に関わる仕事をする人がそうであるのは当たり前だとは思うんですけど、その当たり前のことが当たり前じゃなかったりするのが日本の映画界だから。やっぱり、伊賀さんが関わってる作品は全然違いますよね。

伊賀:もちろん他の人の仕事を見て刺激を受けたり感心したりすることもありますけど、そうですね……。だって、日本映画の予算が少ないこととか、お客さんには一切関係ないわけですからね。映画館では『スカイフォール』や『シビル・ウォー』と同じ入場料をとってるわけだから。映画好きとしては、そこで自分ができる範囲だけでも、できるだけちゃんとしたいという気持ちはあります。あと、映画の仕事が雑誌とかと違うのは、どんな作品でも、作品として間違いなく死ぬまで残るってことで。そこで下手なことはできないなって。

——いつか誰かが、映画での伊賀さんの仕事をちゃんとまとめるべきだと思います。

伊賀:まぁ、いつも出たとこ勝負ですけどね。『時代劇はやってないから、いつかやってみたい』とか、そういう自分のフィルモグラフィー的なことは全然考えてないです。あと、これは綺麗事みたいに聞こえるかもしれませんけど、日本映画のギャラが安いのはもう諦めているので(笑)、せめて必要経費として衣装代をもうちょっとつかえるようになったらいいなという気持ちはあります。それが唯一の悩みであり、切実な願いですね(笑)。

(取材・文=宇野維正)

■公開情報
『溺れるナイフ』
全国公開中
出演:小松菜奈、菅田将暉、重岡大毅(ジャニーズWEST)、上白石萌音、志磨遼平(ドレスコーズ)
原作:ジョージ朝倉「溺れるナイフ」(講談社「別フレKC」刊)
監督 山戸結希
脚本:井土紀州、山戸結希
音楽:坂本秀一
主題歌:「コミック・ジェネレイション」ドレスコーズ(キングレコード)
製作:「溺れるナイフ」製作委員会(ギャガ/カルチュア・エンタテインメント)
助成:文化芸術振興費補助金
企画協力・制作プロダクション:松竹撮影所
制作プロダクション:アークエンタテインメント
企画・製作幹事・配給:ギャガ
(c)ジョージ朝倉/講談社 (c)2016「溺れるナイフ」製作委員会
公式サイト:gaga.ne.jp/oboreruknife/

『何者』
全国公開中
原作:朝井リョウ(『何者』新潮文庫刊)
監督・脚本:三浦大輔
音楽:中田ヤスタカ 主題歌:「NANIMONO(feat.米津玄師)」中田ヤスタカ(ワーナーミュージック・ジャパン)
企画・プロデュース:川村元気
出演:佐藤健、有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之
(c)2016映画「何者」製作委員会 (c)2012 朝井リョウ/新潮社
公式サイト:nanimono-movie.com

■公開情報
『SCOOP!』
全国公開中
監督・脚本:大根仁
出演:福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー
(c)2016「SCOOP!」製作委員会
公式サイト:scoop-movie.jp

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