『ケイゾク』形式はケイゾクできる? 『IQ246〜華麗なる事件簿〜』に見るキャラクタードラマの功罪
『ケイゾク』方式は今も有効なのか? 織田裕二はそのフォーマットにハマっているのか?
もうひとつの要素として、『IQ246』が既視感に満ちているのは、TBSで断続的に作られてきたオフビートなサスペンスの路線にあるからだ。TBS植田博樹プロデューサー(以下、植田P)の制作とあって、植田Pが堤幸彦監督、脚本家の西荻弓絵と組んだ『ケイゾク』以来のテイストもふんだんに盛り込まれている。男女のコンビによる捜査もの、繰り返される小ネタとボケツッコミなどが共通。『ケイゾク』の中谷美紀が出演していることもあって、『ケイゾク』色が強く感じられる。
このオタク的でライトノベルにも通じる世界観には、最近まで固定ファンがいた。植田Pと堤監督、西荻が組んだ『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(2010年)は、内容的にも『ケイゾク』の続編的作品。映画版も作られ、多くのファンに支持された。しかし、2015年に植田&堤コンビが制作した『ヤメゴク〜ヤクザやめて頂きます〜』、前クールの金曜ドラマ『神の舌を持つ男』は、両作とも視聴率が平均5%から6%台と振るわず、視聴者の盛り上がりも見えなくなってしまった。いったいこれまでと何が違うのか? と考えたとき、そこには明らかに脚本家・西荻弓絵の不在がある。西荻が植田&堤コンビから離れ、テレビ朝日で書いた『民王』シリーズがスマッシュヒットするのとは対照的に、このコンビの作品は視聴者の支持を得られなくなっているのだ。
そして今回、植田Pが制作した『IQ246』、そもそも主演の織田裕二はこの世界観にハマっているのだろうか。本作での演技で分かるとおり、織田裕二はその存在自体が良くも悪くも“異質な”人である。彼は代表作の『踊る大捜査線』シリーズにしても、近作の『連続ドラマW 株価暴落』などでも、窮屈な組織の中にいて硬直した状況を突破していく、そんな役どころが似合う。リアリティのある設定にいるからこそ、その異質な存在感が「この人ならこの状況をなんとかしてくれる」という期待感を生むのだ。そんな彼に「IQ246の天才で貴族の末裔」という始めから現実離れした異質な役をやらせても面白みは生まれないし、トゥーマッチに感じられてしまう。これは『相棒』の水谷豊にも言えることで、組織の中にいる教師役や刑事役なら魅力的だが、マッシュルームヘアのエキセントリックな天才作家を演じた映画『王妃の館』は不評だったという問題と通じるのかもしれない。
『神の舌を持つ男』は映画になり、『RANMARU 神の舌を持つ男 鬼灯デスロード編』として12月3日に公開されるが、ドラマが支持されなかった作品がどうして映画になるのか。そこには既定路線という思考停止や、制作陣の過去の成績による楽観的なマーケティングという甘さはないのか。さらには、そうしてベテランのスタッフが優遇される裏で、ドラマや映画を作りたい若手の機会が失われていないのか。そんなことまで心配になってしまうテレビ業界の現状が変わることを期待したい。
■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。
■放送情報
日曜劇場『IQ246〜華麗なる事件簿〜』
毎週日曜21:00〜TBS系にて放送
出演:織田裕二、土屋太鳳、ディーン・フジオカ、宮尾俊太郎、真飛聖、新川優愛、矢野聖人、篠井英介、寺島進、中谷美紀
脚本:泉澤陽子、栗本志津香、原涼子
音楽:井筒昭雄
プロデュース:植田博樹
演出:木村ひさし、坪井敏雄、韓哲
製作著作:TBS
公式サイト:http://www.tbs.co.jp/IQ246/