日本のメジャー映画で「ピカレスク・ロマン」を復活させてみせた、福山雅治の男気に拍手を!
主人公がデリヘル嬢とカーセックスに励むシーンから始まり、チャラ源の今どき他では見たことがない迫真のシャブ中演技(この一連のくだりは予告編などでは意図的に隠されていた)をクライマックスとする『SCOOP!』は、現在の日本映画のメジャー作品でやれることの限界に果敢に挑んだ作品となっている。大根監督の手腕やギリギリのバランス感覚、東宝&テレビ朝日&アミューズの懐の深さも大いに貢献しているに違いないが、やはりそこで最大の切り札となったのは「福山雅治主演」というブランド・パワーだろう。
福山雅治は、自身のブランドを「同性の大人の観客」に向けて最大限に行使してみせたのだ。これは、彼と同世代の人気俳優がずっとノラリクラリと回避してきた道でもある。拙著『1998年の宇多田ヒカル』で、自分は「アイドルとアーティストの違いとは、同性の支持を得られるかどうかがほぼすべて」と書いた。そこで、「女性中心のファン層を持つ男性シンガーが『男性限定ライブ』みたいなものを企画したりするが、あれなどはまさにコンプレックスの裏返しと言える」という一節を忍ばせた。読者には気づいた人も多いと思うが、そこで自分の念頭にあったのは福山雅治のことだった。また、彼と、それこそリリー・フランキーに代表される歳上の同性の文化人との交流についても、ずっと訝しげに遠目で眺めてきたことも白状しなくてはいけない。そこでの経験が、「男同士の友情」のどうしようもなさを描いたこんな見事な作品として昇華される日がくるなんて、想像もしていなかった。
音楽家としての福山雅治についてはいまだ関心の範疇外にあることを認めなくてはいけないが、『SCOOP!』における役者・福山雅治の勇気には最大限の敬意を表したいと思う。映画館を出た後、主人公を真似て下ネタ以前の下品な話とジェスチャーをして相手が眉をひそめるのを見たくなる。こんなだらしなくて愛おしい日本映画を再び大きなスクリーンで楽しめる日がくることを、どこかでずっと待ち望んでいた。
■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)。 Twitter
■公開情報
『SCOOP!』
全国公開中
監督・脚本:大根仁
出演:福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー
(c)2016「SCOOP!」製作委員会
公式サイト:scoop-movie.jp