邦画“日本語字幕つき上映”のメリットと課題ーー『シン・ゴジラ』『君の名は。』の実績から考える

邦画“日本語字幕つき上映”のメリットと課題

 まずは国の福祉政策として、すべての日本映画に字幕を制作しなければならない、というベースを作る必要があるでしょう。制作費は国が補助金を出すようにする(すでに現在も出ていますが)。字幕をつけることは福祉政策というだけでなく、外国人旅行者や居住者が増えているのだから、その方たちのためにもなるはずです。僕もたまに英語字幕で映画を観ることがあります。字幕があると格段に理解しやすくなります。他にも加齢によって聞こえづらい方など、どんどん認知してもらう対象の人数を増やすようにすることが重要です。

 その上で、配給会社やソフト制作会社、放送会社、映画館は健聴者の方の忌避感をなくすことにも併せて取り組まなければならないと思います。またエンタメ業界の片隅にいる者としては字幕つき上映を“誰かがガマンすべきこと”ではなく、“楽しいこと/価値があること”として健聴者の映画ファンにとっても選択肢のひとつになるようにしていきたいという野望があります。作品によっては「字幕つき上映」はむしろ動員数がアップする、というようにしてこそ「仕事をした」と言えるのではないでしょうか。そうでなければすべての映画館で上映されるというところまで持っていけません。

 その挑戦のひとつとして、冒頭で書いたシネマシティでの『シン・ゴジラ』の字幕つき上映は【極上爆音上映】で行います。これは、重低音を専門に出すサブウーファーにスタジアムやアリーナで使用するような強力なものを使用して、音を物理的な震動としても感じられる上映スタイルです。

 ゴジラが歩けば、ちゃんと建物が揺れる。

 健聴者のファンには字幕によってさらに深い理解をもたらし、聴覚障がいの方には体感としてさらなる臨場感をもたらす、なんて幸福な上映スタイルなんだ『シン・ゴジラ』【日本語字幕版極上爆音上映】! この漢字の多さが庵野作品感を高めるというおまけ付き。

 まずはシネマシティが成功の道筋をつけます。【極音】【極爆】を日本中の映画館がマネし始めたように、今度だって絶対イケるよ! ソフトが発売された後に映画館にお客さんを呼ぶのは難しい…という常識だって壊せたじゃない、『マッドマックス』と『ガルパン』ファンのみなさん、そうでしょう? だから映画ファン、『シン・ゴジラ』ファンは【日本語字幕版極上爆音上映】にちょっとくらいはムリしてでも集うように。いっしょに映画館をもっと素晴らしい場所にしよう。世界を少しでも良くすることを、好きなことを楽しむだけでできるなんて、そんな最高なことがありますか?

 そして映画館で映画なんてまず観ないという聴覚障がいの方、だまされたと思って1度来てくださいませんか。映画館で映画を観るって最高ですよ、それが【極爆】ならばなおさら。少なくとも『シン・ゴジラ』は本当に面白いですから、それだけは保証されてます。

シネマシティHP
https://cinemacity.co.jp

「シン・ゴジラ」はちょっと…という方のために他作品の上映情報ページ
https://res.cinemacity.co.jp/TicketReserver/showing/jpnsub

 書き足りないことだらけですが、最後に、技術的な未来を示して、希望をもって締めたいと思います。そう、ヘッドマウントディスプレイですよ、これからは! これはいろいろ一気に解決してしまう破壊力を秘めているような気がします。各自のスマホにアプリを入れて、そこに繋いだ未来メガネに字幕を表示させるというもの。このメガネ、海外の演劇やミュージカル見るとき僕も使いたい。

UD Cast
http://udcast.net/

 実はアメリカだと、もう未来でもなんでもなく、上のようなヤツ、とっくに映画館に導入済みなのです。法律で映像コンテンツに字幕を入れるのがマストになっているのが大きいんですよ。下記の大手シネコンチェーンによる機器導入の記事の日付を見てください。いいですか、2013年ですよ。

参考:http://www.npr.org/sections/alltechconsidered/2013/05/12/183218751/new-closed-captioning-glasses-help-deaf-go-out-to-the-movies

 日本の映画館だって、もっとやさしい場所になれる。You ain't heard nothin' yet!(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

メイン写真:『シン・ゴジラ』(c)2016 TOHO CO.,LTD.

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