『ペット』の作風は、ディズニーやピクサーとどう異なる? イルミネーションが追求する娯楽性
本作と併映の短編作品『ミニオンズ:アルバイト大作戦』では、それがさらに顕著である。イルミネーションのマスコットでもあるミニオンたちが、 TVショッピングの商品を買うために、騙しやすそうな老人から芝刈りサービスで金をせしめようとして騒動になるエピソードには、さすがに教育効果はゼロだろう。それだけにこの作品は、よりイルミネーション作品らしいアナーキーな味が出ているように思われるのである。『ミニオンズ』や『ペット』の上映では、子供の観客の笑い声がよく聴こえてくる。これはおそらく、ストーリーの展開に沿った高度なユーモアよりも、その場その場の単発的なギャグが多いからだろう。近年のディズニーやピクサー作品の脚本は、人間の本質や社会の矛盾をテーマに描くため、子供の観客にとってあまりに高度すぎるように感じる場合もある。本作の平易な物語と、ときに下品にも感じるギャグは、そういう意味でよりリラックスできる純粋な娯楽作品に近いといえる。
このような、現在のメインストリームから微妙にずれた作品作りというのは、戦略的な意識やカウンター精神があってこそだろう。人生の意義を指し示してくれるディズニーやピクサーと、本能的な面白さを追っていくイルミネーション。そのどちらが真に「王道的」な作品作りをしているのかは、意見の分かれるところかもしれない。90年代の新興スタジオだったピクサーが現在のアニメーションを全く様変わりさせてしまったように、果たしてイルミネーションの価値観が次の時代を作っていくのだろうか。今後のアメリカのアニメーション映画界の趨勢がどうなっていくのか、各スタジオの一作一作から目が離せない。本作『ペット』は2018年の公開を目指し、早くも続編の製作が決定している。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『ペット』
8月11日(木・祝)より、全国公開中
監督:クリス・ルノー、ヤローウ・チェイニー
製作:クリス・メレダンドリ、ジャネット・ヒーリー
声の出演:設楽統、日村勇紀、佐藤栞里、永作博美 宮野真守、梶裕貴、沢城みゆき、中尾隆聖、銀河万丈、山寺宏一
原題:「The Secret Life of Pets」
配給:東宝東和
(c)Universal Studios.
公式サイト:http://pet-movie.jp/