今夜放送『もののけ姫』、今こそ考えたい宮崎駿のメッセージ

 スタジオ・ジブリの宮崎駿監督作品『もののけ姫』が本日21時よりノーカット版で放映される(「金曜ロードSHOW!」日本テレビ系列 )。1997年に公開された本作のテレビ放送は今回で9回目。興行収入193億円(歴代興行収入6位)を記録し、TV放送の度に高い視聴率を誇る本作はジブリの中でも屈指の存在だ。本作がいまなお人々を惹きつける理由は何なのか。映画評論家・小野寺系氏に話を聞いた。

「現在は『もののけ姫』が描くテーマが、より明確に受け入れられる時代になってきているように思います。利益追求の経済活動が深刻な事態を引き起こしてしまうという本作の構図は、公開当時よりも3・11、原発事故を経た現在の方が理解しやすいのではないでしょうか。バブル崩壊後、日本の経済状況の悪化から、なかなか明るい未来の見通しがきかないというのは現在まで継続する感覚ですが、アシタカ、サンをはじめとして登場人物の多くが社会から疎外された存在として描かれる切迫感というのは、より状況が深刻化している現在の若者の方がより共感を覚えるのでは。『もののけ姫』の時代設定は、戦国時代を含む室町時代後期と言われています。エボシ御前が指揮するタタラ場では製鉄や武器の製造を行っているわけですが、この利権をめぐり室町幕府と朝廷が背景で争っているという構図は、現在の軍需産業と政治的権力との密接な関係を連想させます。互いの主義主張を分かり合えないがために争いが起きてしまう状況も、現在の世界情勢から感じる不穏な空気と通ずるものがあるのではないでしょうか。『AKIRA』や『攻殻機動隊』など、公開当時には分かりづらい描写も、十年、二十年と経つことでより理解されるという場合があります。本作もそのような作品のひとつといえるかもしれません」

 『もののけ姫』はスタジオ・ジブリ作品の中でもターニングポイントの作品と言われている。

「『もののけ姫』は宮崎駿監督作品の中でもひとつの集大成的作品だと思います。『風の谷のナウシカ』から描いていた自然と人間というテーマがより複雑化され、漫画版の『ナウシカ』や『シュナの旅』の要素も含まれている。エボシ御前の造形も、理想のために自身が汚れる覚悟があるというのは漫画版で描かれていたナウシカのイメージと重なります。アニメーションの製作方法の面では、一部でデジタルを使用しながらも、昔ながらのセル画を使用したアニメーションとしては、これがスタジオ・ジブリとして最後の作品です。後日撤回となりましたが、本作で一時引退発言をしていたのも宮崎氏にとってやりきったという感触があったからでしょう」

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる