台湾は青春映画を作る才能の宝庫だーー『若葉のころ』が描く、二つの時代の恋模様

『若葉のころ』が描く、二つの時代の恋模様

 長編商業映画を監督するのは本作が初めてといえども、MVやCMなどで培ってきた経歴は伊達ではない。短い尺の中で、鮮烈な印象を残す必要がある種類の映像を手がけてきた作家が、何十倍もの長さの映像を作るとなると、ひとつひとつのシークエンスが連帯感を持たずに散らかってしまうことが頻繁に起こりうる。スローモーションを多用したり、やたらとハレーションを入れる手法は、2時間観続けられるものではないのだ。

 グータイはそれを理解してか、スローやハレーションといった効果を頻繁に入れてくる分、じっくりと人物の表情や行動を映すことを拒まず、全体のバランスを保たせる。そのおかげで、映像が一人歩きすることなく、きちんと登場人物が映画の中で活きているのだ。そして観客は意識をまっすぐ物語に向けることができるのである。

 82年の夕方、男子生徒たちが職員室に忍び込み、奪ったレコード盤を屋上から遠くへ目がけて投げる場面は、MVのような印象を重視した映像と、映画の躍動とを均等なバランスで最高潮に持ち上げる見事な場面となった。屋上を走って行く男子たちの姿と、画面の右から左に次から次へ飛んでいくレコード盤、そして背景には夕陽が赤々と照らされている。どことなく、ジャン・ヴィゴの『新学期・操行ゼロ』のラストで子供達が意気揚々と屋根の上を歩いていく後ろ姿を思い出してしまう。それは、青春映画の原点ともいえる名作に、台湾映画界の新たな才能がリンクした瞬間なのだ。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『若葉のころ』
公開中
製作総指揮:リャオ・チンソン
監督・原案:ジョウ・グータイ
脚本:ユアン・チュンチュン
出演:ルゥルゥ・チェン、リッチー・レン、シー・チー・ティエン、シャオ・ユーウェイ、アンダーソン・チェン、アリッサ・チア
(c)South of the Road Production House
公式サイト:http://www.wakabanokoro.com/

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