『少女椿』はどこまで原作を再現できたか? 意欲的なキャスティングと生々しい描写を検証
丸尾末広の同名漫画を原作にして、ようやく実現された実写映画というわけだ。監督のTORICOは本作の映画化に何年もの時間を費やしたというのだから、その力の入り用は半端なものでは無いだろう。「映像化不可能と言われた」という煽り文句を前にしても、昨今の漫画原作の映画化ブームとは、まるっきり作られた意味合いが違っている。この『少女椿』の実写化は、原作をどこまで実写映像で再現することができるかという挑戦そのものなのである。
そういった点で、まず目を引くのがキャスティングである。主人公に選ばれた中村里砂は、言うまでもなく中村雅俊と五十嵐淳子の娘であり、優秀な俳優家系の血を引いているにも関わらず、これまで一切の演技経験が無い。人気ファッションモデルの多くは、少女漫画原作の映画などで、客層を意識して配役されることも珍しくない。だが彼女は、テレビ番組で自身の表情のなさを反省するほど、演技とはかけ離れた位置に自ら置いていたのだ。
そんな彼女をあえてキャスティングした意図は、前述した通り原作の作画に近づけるために必要な、主人公みどりの強力な眼の力を持つ女優が彼女以外にいなかったからに他ならないだろう。終始仏頂面でありながらも、母親譲りの眼の力で、原作のみどりの姿にどことなく似せてきたのである。たしかに、演技未経験というだけあって台詞にはまだ危なっかしさは残るが、おそらく彼女が苦手としている表情の演技に関しては、とくに違和感を感じることはなかった。
他のキャスティングもなかなか興味深い。原作では中年であったワンダー正光の役にはジャニーズらしくないジャニーズとしておなじみの風間俊介を配し、深水元基とともにその演技力の高さで、演技経験の少ない周りのキャストをサポートする役割を果たす。その周りのキャストといえば森野美咲を筆頭に、作家の中谷彰宏やお笑い芸人の鳥居みゆきといったヴィジュアルを意識した配役に加え、鳥肌実やマメ山田といった極めて個性の強いところを充ててきた。中でも、カナブンを演じるロックバンドSuGのメンバーである武瑠は、華奢な出で立ちから放たれる中性的なムードが、この役になかなか相応しく思える。
孤児になった主人公・みどりが、ある日山高帽を被ったサーカス団の団長に拾われる。個性豊かなサーカス団の中で下働きをしながら女優になることを志す彼女は、ある日サーカス団に入団してきた西洋奇術の使い手であるワンダー正光に見初められ、彼の助手を務めることに。それまで他の団員からぞんざいに扱われてきた彼女は、優しく接してくれるワンダー正光に心を寄せるようになるが、やがて彼は自身の持つ能力によって暴走してしまうのである。
92年に中編アニメ映画として製作された、絵津久秋監督の『地下幻燈劇画 少女椿』は、タイトルの通りの劇画調の作画で、かなりキワモノな描写も躊躇なく描き出していた。そのせいもあってか、国内でソフト化されることはなく、現在では何故かフランスから輸入しないと観ることができないのである。もちろんのこと、そんな生々しい描写が実写でも再現されている。ワンダー正光が観客を奇術によって狂乱に陥れる様子は、静止できないほどに強烈である。とはいえ、他の描写に関しては、いくらかセーブしている印象だ。