小松菜奈はなぜ女優業でも成功したのか? “華やかさ”という異質感の魅力
近年、高身長でスタイル抜群、強い存在感と表現力を兼ね備えるモデルという職業から女優業へシフトチェンジするケースは多い。その際、ポテンシャルを存分に発揮できる、明確な“華”が物語の大部分を占めるような役柄ならば強い存在感は大いなる武器になることがあるが、そうではない場合、作品の中で異質感を醸し出してしまうという危険性もある。モデル→女優の成功例はあるが、多くの場合それなりの時間を要する。そんな中、映画『渇き。』で鬼才・中島哲也監督に見い出された女優・小松菜奈は、その強い異質感を作品の中で昇華できる女優として、さまざまな作品への出演が続いている。モデル出身の女優として着実にキャリアを重ねる彼女の魅力に迫る。
身長168センチ、長い手足に小顔……モデルとしてティーンの憧れの存在だった小松。そんな彼女が2014年に公開された映画『渇き。』で「愛する娘はバケモノでした」というキャッチフレーズがついた二面性のある女子高生を演じ、センセーショナルな女優デビューを飾った。メガホンをとった中島哲也監督は、オーディションに現れた小松の独特の存在感を感じ取り、直感的に「いける」と判断したとインタビューで語っている。そして「危うさと明るい欠落感」という表現で小松の持つ空気感を賞賛した。
劇中、小松は、作品の持つダークな世界観とはそぐわない華やかなモデルの持つ存在感を加奈子というキャラクターの中に宿していた。普通ならば、強い異質感ばかりが目立ってしまいがちだが、心の底に潜んでいる「バケモノ」の二面性を、たったワンシーンの冷めた目線一つで表現し、観ている人に強いインパクトを与えた。小松自身も「完成した作品を観た時に、自分一人だけ浮いていると感じた」と発言していたが、表情と目線で、一気に作品の世界観に加奈子をアジャストした。
その後、小松は少女漫画原作の実写映画『近キョリ恋愛』(14年)や『黒崎くんの言いなりになんてならない』(16年)でヒロインに抜擢され、モデルとしてのポテンシャルを存分に発揮できる“華”のある役柄を演じた。可愛らしい制服姿は眩しいほどの輝きをみせ、ドSな男子生徒に翻弄される女子高生役は、若い女の子からは高い支持を受けた。当然のことながら、小松が演じたキャラクターには、何の違和感もない。『渇き。』がなければ、小松はしばらくこの路線の作品が続いたかもしれない……と感じてしまうほどだ。
しかし、小松は、少女漫画原作の実写化のあと、少し趣の違う作品に出演している。現在公開中の『ヒーローマニア-生活-』では、お下げ髪で大きなメガネをかけ、驚異的な情報収集能力を誇るカオリ役を演じている。地味な髪型でジャージ姿だったり、やや伏し目がちに相手を見たり……という役柄には新鮮味を感じるが、5月21日に公開を迎えた『ディストラクション・ベイビーズ』は、まさに小松の“華やかさ”という異質感がドンピシャにはまっている。
実際、メガホンをとった真利子哲也監督は「視線が重要な役。『渇き。』で熟練俳優の中に放り込まれた彼女の違和感に魅力があふれていた」と小松の起用について語っている。紅一点の存在として登場した小松演じる場末のキャバ嬢・那奈。退廃的な統一感のあるトーンのなか、数少ない色のあるシーンの一つだ。彼女の持つ“華やかさ”は作品の中で強烈な異質感を醸し出す。
その後、柳楽優弥演じる泰良と菅田将暉演じる裕也に拉致に近い状態で連れ去られるのだが、ここから一気に小松の魅力が加速する。完全なる巻き込まれキャラで受動的な存在が“恐怖”に直面し、能動的にチェンジした時、異質感は飲み込まれ作品の色に染まっていく。『渇き。』の時は、フッと冷めた目線で瞬間的にアジャストしていったが、本作では、そのストロークが長い分、那奈というキャラクターの変質が強い印象を残す。さらに、事件の顛末が明らかになったあと、小松が病室のベッドで見せた“含みを持った目線”で、自身の状況を一変させたシーンは圧巻だった。