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ベテランと新鋭、ふたりの監督は“終の棲家”をどう切り取ったか 『風の波紋』と『桜の樹の下』評

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 一方、新人の田中圭監督が舞台に選んだのは、ほとんどの住人が独り身の高齢者という大都市・川崎のとある市営団地だ。“独り身の高齢者”“団地”とキーワードが並ぶと、“孤独死”“貧困”といった悲惨な現実がどうしても思い浮かぶに違いない。それらが社会問題となっているのは確か。マスメディアも重要な社会問題としてしきりに伝えている。そういうこともあって、どこかひとり暮らしの老人=不幸という風にくくられがち。我々もついついそれを鵜呑みにしてはいないだろうか? その中身を見たかというとはなはだ心許ないにも関わらず。実は、監督自身も最初は“孤独死”といったことが最終的にテーマになるかもと思って取材に入ったという。でも、まったく違う現実があることを田中監督の『桜の樹の下』は伝えている。

20160408-sakuranokinoshita-sub4.jpg『桜の樹の下』より

今回、田中監督が舞台に選んだ団地は1973年に建設され、現在はおよそ350世帯が入居。住人の7割が高齢者で、その多くが単身者だという。さらに言えば住宅に困窮し、市の補助を受け入居している人も多いそうだ。家賃は最大で1万5000円程度。ここから、住人たちの経済力はなんとなく察しがつくだろう。

 ただ、メディアで語られるような独居老人=生活弱者といったイメージは、ここに登場する住人にはまったく似合わない。実に凛としたたたずまいで、自らの足でしっかりと立つ人間がここにいる。

 確かに彼らは金銭的に恵まれているとはいえない。この団地の置かれた状況も決して明るくない。独り身は寂しくないわけがない。孤独死する人も出ている。それをどうにかなくしたい町会長は頭を悩ましている。そう、孤独死や近所からの孤立といった問題はこの団地でも現実に起きている。でも、住人のひとりひとりを見ていくと、“孤独死”=“不幸”というのが必ずしも当てはまらないことに、この作品は気づかせてくれる。『悼む人』でも描かれていることが、ある意味、この団地の住人の間では日常として取り交わされ、繰り返されている。プレス資料にキャッチコピーで“人生、捨てたもんじゃない”とあるのだが、まさにこの作品を表すのにぴったり。それぞれ身の丈にあった暮らしで、“現在”を謳歌する老人たちの姿がここにはある。その姿は清く生命のエネルギーがみなぎっている。その姿は、“古びた団地”“独り身の年金暮らしの老人”といったことから我々がイメージすることと、かなり違うはず。その認識を改めることになるだろう。

20160408-sakuranokinoshita-sub9.jpg

 

 人にはそれぞれ生き方ある。老人といっても多種多様な人物がいることは百も承知。でも、そう頭でわかっていても、ひとつのイメージにくくってしまうのが人間だ。この2作品は、その我々のある種の思考停止の頭をやんわりとほぐしてくれる。

 最後にもうひとつ加えておくと、『風の波紋』と『桜の樹の下』は“終の棲家”についての映画でもある。自分の生活が何をベースに、何を拠り所に成り立っているのか? そのことに考えが及んだとき、先日起こった熊本の大地震をはじめとした自然災害の被災者に思いを馳せることができるはずだ。

 『風の波紋』と『桜の樹の下』は社会問題に鋭く迫る作品でも、スキャンダルを暴く内容でもない。ひと目でとびつくようなキャッチーな題材でもないから、おそらくテレビなどで取り上げられる可能性もほとんどない。日々の忙しさの中で、見過ごされてしまうもの。大きな枠組みに入ると、少数で外にはじかれ、こぼれ落ちてしまうもの。この2作品は、これらのものをひとつひとつ丹念にすくい、拾い上げている。こうしたなかなかスポットの当たらないことを伝えるのもドキュメンタリー映画の大きな役割。地味な内容かもしれないが、人が考えを巡らす、こういうドキュメンタリー映画がもっとクローズアップされていい。

(文=水上賢治)

■公開情報
『風の波紋』
大阪・第七藝術劇場、新潟シネ・インドなど全国公開中
監督:小林茂
配給:東風
(C)カサマフィルム
公式サイト:http://kazenohamon.com/

『桜の樹の下』
全国順次公開中
監督・編集:田中圭
配給:JyaJya Films
(c)daifukufilm.All rights Reserved
公式サイト:http://www.sakuranokinoshita.com/

      

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