松江哲明の『LOVE【3D】』評:見世物的な面白さ以上の、豊かな映画体験が待っている

いろんな“LOVE”が込められた作品

 さて、作品の内容について語るとなると、やはり3Pについても触れなければいけません。主人公は元彼女とかなりオープンな性的関係を結んでいて、そのプレイの一環として3Pをしたことがきっかけで、現在の奥さんと結婚するわけですが、あのシーンが描かれることのなにが良いかというと、主人公と奥さんはもともと共犯関係のような感じだったんですよね。あれほどオープンなセックスを楽しんだ関係で、それが結婚して夫婦になっている姿を描くなんて、日本の映画ではまずないことです。しかも、奥さんはちゃんと母親としての役割を果たしているのが、3Pのシーンとギャップがあって面白かった。一方で主人公は、いまだに父親としての覚悟ができていない感じで、子どもを抱いては「俺はダメなヤツだ」って泣いている。この辺は、僕自身が最近、子どもが生まれたばかりということもあり、他人事としては見れなくて(笑)。いま僕は、子どもと一緖にお風呂に入っている時間が一番満たされていて、これまでとは生き方を切り替える時期に差しかかっているんだと感じているんですが、たぶん彼も同じなんじゃないかな。ちょうどそういう時期に、この作品を見ることができたのは、すごく幸運だったと思います。監督モードで家に帰ったとき、無垢に泣き叫んだり笑ったりする息子の素直なリアクションを見ると、「この生き方でいいのか」って、疑問が浮かんでしまう瞬間があるんですよ(笑)。だから、僕もいつか風呂場で泣くことがあると思うんですけれど、そのときはきっと「この映画があって良かった」って感じるはず。俺の代わりに先に絶望して泣いてくれてありがとうって。 

 この映画でいう“LOVE”にはいろんな意味が込められていて、情熱的なセックスの“LOVE”だけではなく、恋をした時の淡い“LOVE”や、狂おしい嫉妬の“LOVE”、親が子を想う“LOVE”もある。主人公が、セックスの“LOVE”だけではなく、子の命と向き合うという“LOVE”を学ぶ物語でもあります。『LOVE【3D】』というタイトルには、そういう意味も込められているのでは。

 もしかしたら、いま観ても面白さがわからない方もいるかもしれないけれど、『LOVE【3D】』はいつか経験するかもしれない“なにか”が描かれている作品なので、本当にみんなにおすすめしたいです。世の中はこうするのが正しいっていうことを教えるのが学校だとしたら、映画は誰も教えてくれはしないけれど、誰もがいつか経験する気持ちを伝えてくれるもので、そういう映画はあとで絶対に人生の役に立つ。たとえば『スタンド・バイ・ミー』を観ると、子どもの頃に男の子同士で過ごした変な時間があったなって、ふと思い出したりするんです。あの少年たちがしちゃいけないことを映画の中でやってくれたことで、僕はなにかを学んだんですよね。学校では線路の上を歩いてはいけないって教わったけれど、線路を歩かなければ味わえないものもあるというか。『LOVE【3D】』も同じように“残る”映画なので、きっとなにかを教えてくれるはずです。

(取材・構成=松田広宣)

■松江哲明
1977年、東京生まれの“ドキュメンタリー監督”。99年、日本映画学校卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が文化庁優秀映画賞などを受賞。その後、『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など話題作を次々と発表。ミュージシャン前野健太を撮影した2作品『ライブテープ』『トーキョードリフター』や高次脳機能障害を負ったディジュリドゥ奏者、GOMAを描いたドキュメンタリー映画『フラッシュバックメモリーズ3D』も高い評価を得る。2015年にはテレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』の監督を山下敦弘とともに務める。最新監督作は、2016年4月8日より放送中のテレビ東京系ドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』。番組公式サイトはこちら→https://www.tv-tokyo.co.jp/okodawari/

■公開情報
『LOVE【3D】』
4月1日(金)より、新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!
監督・脚本・編集・製作:ギャスパー・ノエ
撮影:ブノア・デビエ
音楽:ケン・ヤスモト
VFX:ロドルフ・シャブリエ、マック・ガフ・リーニュ社
出演:カール・グルスマン、アオミ・ムヨック、クララ・クリスティン
配給:コムストック・グループ
配給協力:クロックワークス
原題:LOVE 3D/2015年/フランス・ベルギー合作/英語/スコープ/135分/R18+
(c)2015 LES CINEMAS DE LA ZONE . RECTANGLE PRODUCTIONS . WILD BUNCH . RT FEATURES . SCOPE PICTURES .
公式サイト:love-3d-love.com

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