斎藤工と池松壮亮、ぶつかり合う“色気と技術”ーー『無伴奏』ラブシーンの凄みに迫る
一方、祐之介を演じる斎藤工は34歳。「ネクストブレイク候補歴13年」と自虐するポジションだったが、上戸彩が演じるパート主婦とダブル不倫の関係になる教師役を演じた2014年のフジテレビドラマ「昼顔」で、肉感的な唇と低い美声、禁断の恋に悩む表情がセクシーと評判になり、大ブレイクを果たす。斉藤のキャリアもまた、濡れ場のある作品への出演が多い。しかも、ボーイズラブというジャンル映画にも、『BOYS LOVE』『スキトモ』『いつかの君へ』など多数出演。今年1月クールの主演ドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理」もかなりBL要素が強かった。彼のキャリアからは、自らに求められる「セクシー」というイメージを引き受け、楽しみながら、消費される覚悟が感じられる。“壁ドン”CMや、白ブリーフ姿で登場した『週刊文春』でのヌードグラビアなども、素材として世間の欲望を逆手に取って遊んでいる証拠ではなかろうか。
そんな斉藤と池松の共通点は、映画になみなみならぬ愛情をもっていること。斉藤の映画オタクぶりは有名であるし、池松もまた、インタビューでは寡黙ながら、その発言の端々に映画愛をにじませている。筆者が池松にインタビューした際の、「祈りのある映画が好きです」という発言が今でも忘れられない。祈りとは、すなわち願い。観客に何かが届くことを信じ、願い、作品に我を捨てて身を投じている。『無伴奏』の祐之介と渉のラブシーンもまた、どんなに逃れようとしても逃れられない、人間の業や他者への思いを肯定する救いのシーンなのである。
どんな映画でも、前情報を一切入れずに見るにこしたことはない。しかし、このシーンがあることを前提に、祐之介と渉のやりとりに注目することもまた、『無伴奏』においては幸福な映画の見方といえる。なぜなら、2人はこのラブシーンをクライマックスに、視線を動かし、言葉を飲み込み、表情と放つ言葉を矛盾させるなど、ありとあらゆる技術を駆使した演技を緻密に折り重ねているからだ。2人の色気と技術がぶつかり合う様を、ぜひ堪能してほしい。
■須永貴子
インタビュアー、ライター。映画やドラマを中心に俳優や監督、お笑い芸人、アイドル、企業家から市井の人までインタビュー仕事多数。『NYLON JAPAN』『Men’s EX』『Quick Japan』『Domani』『シネマトゥディ』などに執筆。
■公開情報
『無伴奏』
3月26日、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
出演:成海璃子、池松壮亮、斎藤工、遠藤新菜、松本若菜、酒井波湖、仁村紗和、斉藤とも子、藤田朋子、光石研
監督:矢崎仁司
原作:小池真理子『無伴奏』(新潮文庫刊、集英社文庫刊)
主題歌:「どこかへ」Drop's(STANDING THERE, ROCKS / KING RECORDS)
配給:アークエンタテインメント
製作:「無伴奏」製作委員会(キングレコード/アークエンタテインメント/オムロ)
2015年/日本/カラー/16:9/5.1ch/132分/R15+
(c)2015 「無伴奏」製作委員会
公式サイト:mubanso.com