『いつ恋』第一話で“男女の機微”はどう描かれた? 脚本家・坂元裕二の作家性に迫る

 やがて、練と音が付き合っていると誤解した白井は婚約を破断にする。怒った林田によって母親の遺骨をトイレに流された音は、何もかも諦めるが、寝たきりとなっている林田の妻・知恵(大谷直子)の「音、逃げなさい。もう、あんたの好きなところに行きなさい」という言葉に後押しされて、家から飛び出す。大雨洪水警報のサイレンがなる中、練のトラックに乗り込んだ音は、手紙を受け取る。練が届けた手紙は、音の母親が死の間際に書いたものだった。

 坂元裕二は「手紙」を、繰り返し登場させる脚本家だ。しかし、その手紙は相手には届かないものとして登場していた。坂元裕二のドラマは他者との断絶で終わり、劇中に登場する男女はいつも別れる。届かない手紙というのはその象徴だ。だが、『いつ恋』は、失われた母からの手紙を届けるところから、物語が始まるのだ。

 やがて二人は東京に到着する。しかし、音は練と離ればなれになり、一人取り残されてしまう。

 そこから、舞台は2011年の一月に移る。設定では練は福島出身ということになっている。おそらく劇中では、3月11日の東日本大震災が描かれるのだろう。「サイレンが鳴る中、街から人々が逃げ出す場面」が現実化した時、音は何を思うのだろうか。

 ここまで気持ちがざわめいた第一話は、はじめてだ。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■ドラマ情報
『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』
2016年1月18日(月) 21:00~放送開始
出演者:有村架純、高良健吾、高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎
脚本:坂元裕二
プロデュース:村瀬健
演出:並木道子
制作:フジテレビドラマ制作センター
公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/itsu_koi/index.html

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