検閲ギリギリのラインを攻める!? 中国共産党バトルエンタテインメント『タイガー・マウンテン』

『タイガーマウンテン』で見る中国映画の“職人性”

 中国の映画市場は、2017年には北米を超え世界第1位になるといわれている。この巨大なマーケットを狙い『アイアンマン3』などハリウッドの人気シリーズ作が中国との合作として製作されたのは記憶に新しいところ。ここで製作者たちの悩みの種となっているのが、中国共産党政府の検閲である。共産主義や警察・公安などの組織に否定的な描写は厳禁。銃やドラッグ、セックスの類がもってのほかとあっては、表現の幅が狭まるのは当然だろう。それは、中国返還後に本土にチャンスを求めた香港映画人たちとて例外ではない。

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(C)2014 Bona Entertainment Company Limited All Rights Reserved.

 そんな検閲をものともせず、圧倒的なエンタテインメント作品を作り続けているのが、かつて〝香港のスピルバーグ″と呼ばれたツイ・ハーク監督だ。彼は興行収入約96億円を記録した中華版シャーロック・ホームズ『ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪』をはじめ数々のヒット作を産み出し、2015年まででトータル400億円以上を中国で稼ぎ出している。今回紹介する『タイガー・マウンテン 雪原の死闘』は、そんなハーク監督が本領を発揮した最新作である。

 舞台は1946年、国民党と中国共産党の内戦で混乱のさなかにあった中国。東北地方では匪賊と呼ばれるならずもの集団が民衆に非道の限りを尽くしていた。なかでも、ハゲワシの異名をとる男が率いる一派は日本軍が残した要塞・威虎山(タイガー・マウンテン)を根城に、圧倒的な武力で猛威を振るっていた。匪賊撃退のため進軍していた中国共産党・人民解放軍の精鋭部隊・203部隊は、ハゲワシ一派の先遣隊が占拠する村を解放することに成功。さらに再び村が襲われないようそのまま滞在し、わずか30名でハゲワシ一派のせん滅を計画する。そんななか、共産党本部から203部隊に元諜報部の英雄・楊子栄が派遣されてくる。楊は自身の経験を活かし、数百名が立てこもる威虎山への潜入を志願するのだった。

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 本作の原作は、中国共産党の実在の英雄・楊子栄の活躍を描いた小説『林海雪原』。これは中国共産党を礼賛するために作られたバリバリのプロパガンダ作品である。ハーク監督の代表作は『チャイニーズ・ゴーストストーリー』や、大友啓史監督(『るろうに剣心』)が理想のアクション映画として挙げる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』ファンタジックなCG演出や、荒唐無稽なワイヤーアクションを得意とするハーク監督に政治色の強い題材を成立させることが可能なのだろうか?  その答えは「ツイ・ハークに不可能はない」だ。

 『タイガー・マウンテン』では、少数精鋭の203部隊が知略と勇気を武器に、いかにして匪賊の猛攻を防ぎきり、難攻不落の要塞を落とすかが描かれる。劇中では派手なワイヤーワークはほとんど登場することはなく、あくまでも内戦中の緊張感を伝えるリアリティある銃撃戦が繰り広げられるのが特徴だ。一方で、ここぞという場面にはハーク監督お得意の荒唐無稽な描写が随所に散りばめられているのである。

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 例えばハゲワシ一派の先遣部隊との一戦では、跳弾を利用して複数の匪賊を仕留める場面を、スローモーションと回転するカメラワークで痛快に見ることができる。さらには、敵と味方の投げ合った手榴弾同士がぶつかり空中で炸裂する、奇想天外なシーンも登場するのだ。

 203部隊が立て籠る村に匪賊の大群が押し寄せる場面は、落とし穴や建物を利用したゲリラ戦がメイン。ここでは、弾丸や資源が尽き絶望的な状況に追い詰められる『ローン・サバイバー』のような状況になったと思いきや、薬きょう飛び交う『男たちの挽歌』のようなケレン味のあるガンアクションも見ることがきる。こういったかたちで、本作では終始リアリティとファンタジーが観るものに波状攻撃を仕掛けてくるのである。

 物語が進めば進むほど、この異様なテイストは際立ってくる。楊が雪山の中タイガー・マウンテンに向かうシーンでは、突如として巨大なトラが出現。ピストル一丁の男と猛獣が、なぜか木に登りなら繰り広げる闘いには度肝を抜かれるはずだ。そして、203部隊がタイガー・マウンテンに攻撃を仕掛ける頃には、映画はすっかりツイ・ハーク色に。幻想的な提灯のライティングの中、巨大な落石あり、戦車の突撃ありのハチャメチャなクライマックスは圧巻だ。

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