西尾維新原作『傷物語〈Ⅰ鉄血篇〉』はいかにして”映画らしいアニメ映画”を超えたか
昨今の日本のアニメ映画では、数多くのオマージュなどでアニメーションの枠を超えた「映画らしさ」を全面的に打ち出そうとする工夫が多くなされていると見てとれる。しかし本作に限っては、内容面も規格面も両方でそれをやってのけることにより、従来の主流を打ち壊すことに成功した。この挑戦的なチョイスによって、圧倒的な存在感を確立して、「映画らしいアニメ映画」ではなく、毅然とした「映画」であることを証明したのだ。
今回の『鉄血篇』、そして夏に公開する『熱血篇』と、公開時期が未定となる『冷血篇』の3作に分かれるだけあって、まだ「起」の部分である本作では物語が大きく進むことはない。とはいえ、それぞれのキャラクターの巡り合わせを描き、また実質的にわずか4人という極めて少ない登場キャラクターの対話を軸に進めることで、その体感時間は非常に短く思える。そう考えると、あえて3部に分ける必要性があったのか、とも思ってしまうのだが、1作を作るために費やす時間を考えたら致し方ないことであろう。いずれこの3作が1本の映画として再上映されたら、それも面白そうな予感がする。
エンドロールの最後に次作『熱血篇』の予告編が登場する。これもまた、シネスコの画面ギリギリまでいっぱいに張り巡らされた文字情報の洪水で、観客を圧倒するパワフルな予告編であった。とりあえずは、残りの2作が延期されることなく無事に公開されることを願うばかりである。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■公開情報
『傷物語〈Ⅰ鉄血篇〉』
公開中
原作:西尾維新「傷物語」(講談社BOX)
総監督:新房昭之
監督:尾石達也
キャラクターデザイン:渡辺明夫 守岡英行
音響監督:鶴岡陽太
音楽:神前 暁
アニメーション制作:シャフト
キャスト
阿良々木暦:神谷浩史
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード:坂本真綾
羽川翼:堀江由衣
忍野メメ:櫻井孝宏
配給:東宝映像事業部
公式サイト:http://www.kizumonogatari-movie.com/