宇野維正の『イット・フォローズ』評
2016年最初の大傑作! ホラー新時代到来を告げる『イット・フォローズ』を激推し!
『イット・フォローズ』のもう一つの斬新さは、本作がホラー映画のフォーマットを借りたティーン映画であること。より正確に言うなら、ホラー映画として超一級品であると同時に、アメリカの田舎町に住むティーンの性への恐怖心を描いた青春映画としても非常に優れた作品になっていること。『13日の金曜日』シリーズを筆頭に、被害者が性に奔放な、いわゆる「リア充」な若者たちであることはホラー映画の伝統であるが、『イット・フォローズ』の登場人物たちは決して「リア充」ではない。テレビと映画しか娯楽のない、性に対しても臆病な田舎の普通の若者たちだ。「別のジャンル映画のふりをしたティーン映画」という意味では、近年の作品でいうと「超能力SF映画のふりをした青春映画」の傑作『クロニクル』を思い出したりもするが、『イット・フォローズ』は作品としてより審美的で、全編が映画的な快楽に満ち溢れている。
いやホントに、設定やストーリーも滅法おもしろいけれど、ただただボーッと画面の設計と色彩の美しさに見惚れながら、アナログ・シンセサイザー主体の秀逸なスコアに聴き惚れているうちに、あっという間にエンドロールを迎えている。『イット・フォローズ』はそういうタイプの作品でもあるのだ。そんな「まるで(悪)夢のような体験」そのもののような作品という意味で、個人的にはニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』以来のインパクトだった。そういえば、『ドライヴ』に主演したライアン・ゴズリングは、レフンの作風に強い影響を受けて監督デビュー作『ロスト・リバー』を作り上げたが、あの作品の舞台も『イット・フォローズ』と同じデトロイト郊外の寂れた町だった。もしライアン・ゴズリングが本作『イット・フォローズ』を観たら(多分観てるだろうけど)、「俺、本当はこういう作品を撮りたかったんだよ!」と悔しくてしばらく眠れなくなるんじゃないだろうか。『イット・フォローズ』、ホラー映画ファンはもちろんのこと、「全映画ファン必見の作品」とはまさにこの作品のことだ。
■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)、1月16日発売。Twitter
◼︎公開情報
『イット・フォローズ』
2016年1月8日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開
監督・脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:マイカ・モンロー、キーア・ギルクリスト、ダニエル・ゾヴァット、オリヴィア・ルッカルディ、リリー・セーペほか
配給:ポニーキャニオン
2014/アメリカ/100分/シネスコ/デジタル/原題:It Follows/R15+
(c)2014 It Will Follow. Inc.
公式サイト:http://it-follows.jp/