気鋭のラッパー2人が話題のヒップホップ映画を語り合う
PUNPEE × OMSBが語る、『ストレイト・アウタ・コンプトン』の衝撃
OMSB「ラップのシーンの再現度は、本当にすごい」
ーー作中の登場人物の描かれ方については、それぞれどんな印象を抱きましたか?
PUNPEE:どれくらい脚色されているのかは、やっぱり気になるかな。各メンバーの性格とか。
OMSB:DJイェラは作中でもひょうきんなヤツでしたよね(笑)。だから、もう少し活躍を見たかったというのはありますね。でも、The D.O.C.がちょろっと出てきたり、ヒップホップが好きな人が観たらニヤリとできるポイントがたくさんあったのは本当に良かったです。
PUNPEE:中でもドレーはものすごく存在感があったね。成功者は語るということなのかな。イージー・Eの才能を見出すときとか、「こうやってプロデュースしてたんだ!」っていう驚きもあったし、当時から「俺は完璧主義者だ」って言っているのとか、なるほどって思った。
OMSB:ベストテイクが録れたときのラップは、音源にそっくりでしたね。ラップのシーンの再現度は、本当にすごいと思います。
PUNPEE:人相も結構似ているよね。2パックなんかは、出て来た瞬間にあまりに似ていてびっくりした。ラッパーかと思って調べたら、マーク・ローズっていう役者らしい。
OMSB:あまりに似てるから、合成かと思いました。スヌープ・ドッグは一瞬、「あれ?」って思ったけれど、喋り方のヨレ具合とかは似ていましたね。
PUNPEE:ドレーとスヌープが即興で“あの曲”をつくってくシーンとか、かなりドラマチックだったよね。
OMSB:本当にこんな風にやってたの?っていう感じもするけれど、絵的にかっこ良かったです。あと、アイス・キューブはさすがに息子が演じているだけあって、ものすごい似ていました。
PUNPEE:あの人はとても似ていたね。ラップも似てた!
OMSB:序盤で、最初にドレー達が所属していたワールド・クラス・レッキン・クルーがちゃんと描かれていたのも、嬉しかったです。さすがに口紅はしていませんでしたけど……。
PUNPEE:ちゃんと衣装は着てたからね。そういうところの作り込みはすごいと思う。ただ、その分、関係者の反対意見も多そう。シュグ・ナイトが極悪人として描かれていたけれど、出所してきたらどう思うんだろう?
OMSB:でも、もっと悪かったんじゃないかなと思いますね。それこそ、映画では描けないくらい。
PUNPEE:この映画の撮影中に揉めて、友人を車で轢いたっていう話があるよね。でも、莫大な金を払って出てくるんだと思う。次回作はシュグ・ナイトを主人公にするっていう噂もあるよ。
OMSB:シュグ・ナイトはほかにも悪い噂がいっぱいあるから、映画としては面白いかもしれないけれど、とんでもない作品になりそうですね。ジェリー・ヘラーも、最初はいいヤツに見えたのに、どんどんクズになっていって。人相が良いから、みんな騙されちゃうんだろうなって。俺、こういう人からだったら壷とか買っちゃいそうですもん(笑)。
PUNPEE:たしかに。この役者の人は結構いろんな映画に出てるけど、だいたい善人の役だしね。
OMSB:警官が不当にボディチェックするシーンでは、ジェリーが彼らをすごくかばっていたじゃないですか? 俺も昔からよく職質されるから、ああいうシーンは感情移入しちゃうんだけど、だからこそ後半は辛かったです。あの時はすごくいいヤツだったのが、金が入って人が変わっちゃったのかな? それとも、最初から彼らを信頼させるためにいいヤツぶっていたのか……。
PUNPEE:たしかに最後の方だと、あれも全部演技だったのかなって思えてきてしまう。実際のところはわからないけれど、あの辺のゴタゴタはたしかにキツかった。ところで、後にドレーと一緒にBeats共同創業者になるジミー・アイオヴォンもカメオ出演してたよね。一瞬だけど、ちゃんと出てた。
OMSB:出てましたね。ジミー・アイオヴォンも、いかにもインテリヤクザって感じの風貌でした。
PUNPEE:彼はもともと、ジョン・レノンのお茶汲みから始まって、エンジニアとしてブルース・スプリングスティーンの作品とかも手掛けてたんだよね。
OMSB:そうなんですね、すごい!
PUNPEE:あと、クレジットを見たらチャックD役のひとも出ていたらしいよ。どのひとかわからなかったんだけど、ボム・スクワッド(パブリック・エナミーのプロデュース・グループ)の影響があったことがわかるよね。
OMSB:たしかに、政治的な部分とかパブリック・エナミーに通じますよね。
PUNPEE:一方で、アイス・キューブの好感度はすごくあがった。
OMSB:ほとんど全部のリリックを書いているのに、取り分がイージー・Eに行くんじゃあ、そりゃあ不服になりますよね。たぶん、グループの中で一番苦労していたんじゃないかなって思いました。
PUNPEE:ツアー回って2億円くらい稼いだのに、200万円くらいしかもらってなかったらしいからね。そりゃあ怒るって。でも、そういうタイプってグループにひとりはいるよね。努力家で実力もあるからこそ、損な役回りになっちゃうヤツ。
OMSB:あー、いますね。アイス・キューブは金っていうより、正義で動いている感じがありますよね。だから、後からちゃんと仲直りできたんだと思います。ちょっと別の話なんだけど、『ボーイズン・ザ・フッド』でアイス・キューブが被ってたレイダーズの帽子が、ロゴが金属になっててすごいカッコいいんですよ。それ、いまだに探してて。たぶん特注だから、作るしかないんですよ。
PUNPEE:それは作るしかないね(笑)。たしかアイス・キューブは、『ボーイズン・ザ・フッド』のジョン・シングルトン監督に勧められて、自分も映画監督になったって。ラップが書けるなら、脚本も書けるって勧められて。それでちゃんと成功しているんだから、すごいよね。あと、イージー・Eも、憎めないキャラだよね。
OMSB:調子に乗るところはあるけれど、絶対に悪いヤツじゃないという感じでした。うちの母親も映画を観て、「あの子はやんちゃだけど良い子」っていってましたね(笑)。
PUNPEE:だから、みんなが活躍しているときに「俺、なにやってんだろう」って感じで反省しているのを見たときは、ちょっと涙腺にくるものがあった。実際にヒップホップやっていると、そういうときあるじゃない? 周りのちゃんとしたヤツが成功して、置いてきぼりを食らってしまう感じというか。
OMSB:途中でふてくされて、燻っちゃったりとか、たしかにありますね。MCレンもそれほどスポットが当てられていないけれど、ラップは良かったです。
PUNPEE:いちばん目立たないけど、なんかシブい!
OMSB:なんかシブいで片付けられるポジションも辛いけど(笑)。でもGラップのファンは、MC・レンが好きなヤツ、メッチャいるんじゃないですか。