PUNPEE × OMSBが語る、『ストレイト・アウタ・コンプトン』の衝撃

PUNPEE「手探りでやっている感があったのも良かった」

ーーヒップホップ的な観点から観て、興味深かったところは？

PUNPEE：ヒップホップ的なところでいうと、「ファック・ザ・ポリス」のプロモーションの仕方とかもすごかった。FBIから圧力がかかったのを、そのままプロモーションにしちゃうという。

OMSB：いわゆる炎上商法ですよね。そういうやり方のパイオニアだと思います。あとは、地元をすごくレペゼンしている感じもよかったです。もちろんラップを録っているとこもかっこ良かったし、ライブシーンもめちゃくちゃリアルでした。

PUNPEE：まだ「ヒップホップはこういうものだ」っていうのが確立されていないからこそ、手探りでやっている感があったのも良かったよね。道を作っている途中という感じで、だからこそリスナーも新鮮に感じていて、ものすごく熱があったんだと思う。ライブのシーンでは白人のリスナーも多かったけれど、あれは実際にそうだったんだろうと思う。

OMSB：イージー・Eは、リリックを自分で書いているわけじゃないけれど、だからといってそれをワックだとは言ってないのも興味深かったです。ドレーがイージー・Eに「自分のことのように歌うんだ」って指示を出していたけれど、それでなにか、自分なりに納得できましたね。リリックは自分で書くべき、みたいな風潮もあるけれど、そういう枠に囚われていなくて、いまよりも自由な感じでした。

PUNPEE：商業的なことを当初からちゃんと意図していたのも説得力があったね。イージー・Eが、ダンサーを付けたり、衣装を合わせたりといったアイデアを出して、アイス・キューブがリリックを付けて、ドレーが音をしっかりさせる、と。

OMSB：そういうことに対して、変な拒否反応はないですよね。いまだと、どうしても固定観念に縛られがちになってしまいますが。

ーーこの映画は歴代の音楽映画の中でもNo.1の興行収入だったんですけれど、この映画はどこが新しかったと思いますか。

PUNPEE：やっぱり、いまもの凄い成功しているひとの若かりし頃を映画化したっていうところじゃないかな。たとえばエミネムはいまも活躍しているけれど、『8 Mile』の頃はムーブメントの真っ最中で、ドキュメンタリーに近い感覚だった。だけど、この映画の場合は、メンバーがその何十年後かにもの凄い成功を収めることをみんなが知っている状態で観るわけで、だからこそ衝撃も大きいんだと思う。ヒップホップがどれだけ影響力のあるカルチャーだったかを、結果として証明している。

OMSB：いまのヒップホップと、この頃のヒップホップは受け止められ方も違うから、俺たちから観ても新鮮ですし。

ーー先ほどジミー・アイオヴォンの話も出てきましたが、本作はヒップホップの枠に収まらない大きなカルチャーの歴史も見えますよね。

PUNPEE：そういうところもわかりやすく描かれていたし、本当に面白かった。細かいネタも多いから、何度も楽しめそうだし。

OMSB：全体的にわかりやすかったですね。ただヒップホップに詳しくない人は……まあ、観ないか。

PUNPEE：いや、観るんじゃないかな？　でも、『ミッション・インポッシブル』とかと比べると、日本では一部でしか盛り上がっていない気がする。

OMSB：『8 Mile』はバトルの要素があったから、『ロッキー』みたいな物語として受け入れやすかったけれど、それに比べるとこの作品は少しハードルが高いかもしれませんね。たとえば“ドープ”って言葉が出てきても、ヒップホップに詳しくないひとは意味がわからないだろうし。この映画を観てすぐにヒップホップが理解できるというものでもないと思います。でも、この作品をきっかけに興味を持つ人が増えるといいですよね。

PUNPEE：映画としても単純にカッコいいから、これを観てラップを始めたりする人も出てくるかもしれない。

OMSB：まず間違いない作品だから、みんなに観て欲しいですね。

（取材・文＝松田広宣）

■公開情報
『ストレイト・アウタ・コンプトン』
12月19日（土）渋谷シネクイント、新宿バルト9ほか全国公開
監督：Ｆ・ゲイリー・グレイ　脚本：ジョナサン・ハーマン、アンドレア・ベルロフ　
出演：オシェア・ジャクソン・Jr、コーリー・ホーキンス、ジェイソン・ミッチェル、ポール・ジアマッティほか
2015／アメリカ／147分／シネスコ／デジタル／原題：Straight Outta Compton
配給クレジット：シンカ、パルコ ユニバーサル映画
(c)2015 UNIVERSAL STUDIOS