キース・リチャーズの滲み出る人間性ーーネットフリックス独自ドキュメンタリーを小野島大がレビュー

キース・リチャーズ、ドキュメンタリーレビュー

 素晴らしいドキュメンタリーだった。これを見れば、誰だってキース・リチャーズのことが好きになってしまうだろう。こんなに魅力的な奴がやる音楽なら、なんとしても聴かなければ、と思わせてくれる。発売されたばかりのアルバム『クロスアイド・ハート』には、そんなキースの魅力が詰まっているのだ。

 ネットフリックスのオリジナル・コンテンツとして、『クロスアイド・ハート』発売と同時にドキュメンタリー『キース・リチャーズ:アンダー・ザ・インフルエンス』が世界同時配信された。キース本人への豊富なインタビューと密着取材、『クロスアイド・ハート』のレコーディング風景や過去の貴重映像、プロデューサーのスティーヴ・ジョーダンやトム・ウエイツ、バディ・ガイなど関係者への取材も含む充実の内容で、キースの過去、そして現在を浮き彫りにしてみせる。

 タイトルがこの映像作品のテーマを物語る。キースはローリング・ストーンズ結成の目的は、自分たちが聴いてきた音楽をみんなに知ってもらうためだった、と語る。ブルース、R&B、カントリー、ジャズ、ロックンロール…初期ストーンズのレパートリーはほとんどすべてアメリカの黒人音楽のカヴァーだった。イギリスはもちろん、アメリカでだって、一部の黒人以外はブルースなんて聴いたこともなかった時代の話である。マネージャーのアンドリュー・オールダムに尻を叩かれるまで、彼らはオリジナル曲などまったく作る気がなかった、というのは有名な話だ。キースはかって、自分たちの役割は先人から伝統を受け継ぎ、後輩たちに渡していくことだ、と語っていた。つまり自分たちは「繋ぐ存在」に過ぎないのだと。だがそれこそが自分の使命なのだと。確かにローリング・ストーンズによって初めて知った音楽は数知れない。ミック・ジャガーとの希代のソングライター・コンビで名曲を量産し、世界一のロック・バンドとしての名声を極め尽くした今もなお、その謙虚さと情熱はまったく変わらないこと、『クロスアイド・ハート』こそはそんなキースの思いが刻まれた作品であることが、このドキュメンタリーで明らかにされる。

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