SF漫画『宝石の国』完結ーー『花束みたいな恋をした』でも話題「生々流転」を描いた傑作物語を振り返る
そうした多彩な宝石たちにあって主人公のフォスフォフィライトは、誰よりも脆くちょっとした衝撃で壊れてしまうため、宝石たちを指揮している僧形の人物で、宝石たちからは先生と呼ばれている金剛から戦闘には出ず博物誌を作るように言われ、宝石たちの日々を観察することを始めた。物語は、そんなフォスの目を通す形で、宝石の国で共に過ごすような感じで進んでいく。
そのフォスの運命が、まさに生々流転といったものとなっている。まず身体。両脚が貝のような生き物の殻に換わり、両腕も金と白金の合金に付け替えられる。頭もラピスラズリのものにすげ替えられる。そうした変化を経て強くなり、戦闘に参加できるようになったフォスが、宝石たちを捕まえて月へと連れていこうとする月人との長く続いてきた戦いに、終止符を打つ存在になるのだろうか? そんな想像が浮かんだ。
違っていた。『宝石の国7』あたりでフォスは、海に暮らす軟体動物が殻を持ったような姿のアドミラビリス族から、宝石と月人、そしてアドミラビリス族がどのようにして誕生したのかを教えられる。先生と月人との間に宝石たちが教えられていない秘密があるのではないかと考えるようになり、そのことを月へと行って確かめようとする。
続く『宝石の国8』で乗り込んだ月で、フォスは驚きの真実を知り、読者も同じような驚きの展開を見せられる。その内容については、2017年10月から12月まで放送されたテレビアニメ『宝石の国』でもまだ描かれておらず、これから作品に触れる人もいるので伏せておく。ひとつ言えるのは、月人は無慈悲な襲撃者でも神がかった存在でもなかったということ。フォスは先生の正体であり月人の目的といったものを知り、自分はどうしたらよいのか迷ってある決断をする。
フォスは、宝石たちの観察者といった位置づけから、宝石たちと月人たち、そして海にいる軟体動物たちも含めた存在たちの間を取り持ち、同じ目標に向かって進むための原動力となる。そして、これも生々流転としか言いようのない運命を、長い時間をかけて示していく。
そうした物語から浮かび上がってくるのは、『宝石の国』が人類であり地球といったものの未来を、とてつもなく長いスパンで描こうとした壮大なSFだったということだ。美しい宝石たちがいて、恐ろしい月人たちがいて、海にアドミラビリス族がいる物語の舞台を想定した上で、その先に壮大な生命と宇宙の未来のビジョンを指し示す。そして、読む人を流転する運命というものの奔流の中に叩き込み、未だかつて見たこともないような場所へと連れて行く。