【追悼】ポール・オースター:私たちが生きていくために必要な「物語の力」
愛する者を生の世界に連れ戻したいと彼らは願い、私はその願いを叶えてやるべく全力を尽くす。その人物を言葉のなかでよみがえらせ、原稿が印刷され物語が本の形で綴じられたら、彼らの手元には一生のよすがとなるものが残ることになる。彼らが死んでもまだ残るもの、私たちみんなが死んでも残るものが。
本の力をあなどってはならない。
やはり私たちが生きていくためには物語が必要であり、これまでに経験したものごとを、自分なりのやり方で語り直さなければならない。オースターが言う「本の力」とは「物語の力」そのものだ。しかし、よき物語を語るのは実に難しい。どうすれば自分のための豊かな物語を語れるのか? オースターの作品を読んでいると、その手がかりが見つかりそうな気がしてくるのだ。