「まるで二俣川駅のよう」ふかわりょう、南川朱生(ピアノニマス)対談 大人になってやっと気づいた「鍵盤ハーモニカ」の魅力
鍵盤ハーモニカが教育現場から消える日がくる?
ーーもしかしたら大人になっても押し入れのなかに鍵盤ハーモニカをしまったままの人が多いかもしれませんね。
南川:そうですね。本書を通して私がお伝えしたいのは、鍵盤ハーモニカ自身が、あなたの息吹に触れることを望んでいる可能性があるということ。彼らはそう意志を持っているとしか思えません。ですので、そんな鍵盤ハーモニカたちをこれを機にもう一度吹いていただけたら嬉しいです。
ふかわ:最近、短歌が流行っているじゃないですか。学校の授業だとテンションあがらなかったけど、大人になってフラットな気持ちでスマホから短歌を投稿すると、急にモチベーションがあがったりする。そういう潜在能力は、鍵盤ハーモニカにもあると思います。
ーー南川さんは鍵盤ハーモニカの現状をどう捉えていますか。
南川:近い将来、学校教育としての鍵盤ハーモニカはなくなるかもしれません。鍵盤ハーモニカが普及できたのは、元々はハーモニカが築いてきたポジションを奪えたからなんです。でも新型コロナウイルス以降、衛生面が問われはじめてタブレット端末が教育現場で広まっています。かつてハーモニカが虐げられたように、鍵盤ハーモニカが教育現場から消えていくことがもう始まっているように思います。
ふかわ:でも、そうなると配布されないからこその楽器本来の魅力に気付いてもらいやすくなるのでは?
南川:そうなんです。ハーモニカは教育現場から消えつつあっても発展・普及しています。では、鍵盤ハーモニカはどうなるのか。今は価値をあまり理解してもらえない状況ですが、数少ない楽器になれば、その良さに気付いてくれる可能性が高まるのではないかと期待しています。
ふかわ:鈴やカスタネットもそうですが、鍵盤ハーモニカも雑に箱のなかに放り込まれている可哀そうな存在ですからね。
南川:私は日本で要らなくなった鍵盤ハーモニカを途上国に送るボランティアをしていたのですが、楽しそうに演奏している子どもたちを見ると涙が出てきます。
ふかわ:そんなドキュメンタリーを見たい。南川さんには、世界中を旅してどんどん鍵盤ハーモニカを普及させてほしいです。
南川:はいぜひやっていきたいです。鍵盤ハーモカは喋らなくても心を通わせられるツールだと思っているので。
ふかわ:僕はDJのインスタライブで使ってみようかな。あと、鍵盤ハーモニカって逆再生するといい感じの音が出るような気がします。
南川 はい、そう思います! あとエフェクトをかけると楽しいですよ。
ふかわ:なるほど。音をマイクで録って、サンプリングして重ねても面白そう。そういう素材としてのポテンシャルも高そうですね。
南川:あまり気づかないかもしれませんが、鍵盤ハーモニカはテレビやBGMなど日常のさまざまな場所で音が流れているんです。決して煌びやかな楽器ではないですが、誰かの要望を少しずつ叶えてくれる名脇役のような存在として生き続けているんです。
ーー一過性のものではなく、本当の意味で鍵盤ハーモニカが日本に根付いていけばいいですね。そのきっかけが『鍵盤ハーモニカの本』になるかもしれません。
南川 おこがましいですが……(笑)。本書は、国内外の歴史だけでなく、鍵盤ハーモニカに取り憑かれたさまざまな人物にもたくさんスポットをあてています。「ググっても出てこない」偏愛たっぷりな鍵盤ハーモニカの本ですので、ぜひ手に取ってくだされば!
南川朱生(ピアノニマス)
1987年生まれ。日本を代表する鍵盤ハーモニカ奏者・研究家。世界にも類を見ない、鍵盤ハーモニカの独奏というスタイルで、多彩なパフォーマンスを行う。所属カルテット「Tokyo Melodica Orchestra」は米国を中心にYouTube動画が37万再生を記録し、英国の世界的ラジオ番組classic fmに取り上げられる。研究事業機関「鍵盤ハーモニカ研究所」のCEOとして、大学をはじめとする各所でアカデミックな講習やセミナーを多数実施し、コロナ禍で開発したリモート学習教材類は経済産業省サイトに採択・掲載される。東京都認定パフォーマー「ヘブンアーティスト」資格保有。これまでにCDを11作品リリースし、参加アルバムはiTunesインスト部門第2位を記録。楽器の発展と改善に向け多方面で精力的に活動している。趣味は日本酒とテコンドー。
ふかわりょう
1974年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学在学中の1994年にお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘア・ターバンを装着し、「小心者克服講座」でブレイク。現在はテレビ・ラジオでMCやコメンテーターを務めるほか、ROCKETMANとして全国各地のクラブでDJをする傍ら、楽曲提供やアルバムを多数リリースするなど活動は多岐にわたる。著書に『スマホを置いて旅したら』(大和書房)、『ひとりで生きると決めたんだ』、『世の中と足並みがそろわない』(ともに新潮社)などがある。