作家はSNSをやるべきではない? 中山七里らが明かす、作家業のブッチャケ話
これほど作家になることが、簡単な時代があったろうか。と、ここ十年くらい思っている。新人賞の受賞が作家デビューのオーソドックスな方法であることは間違いないが、現在はそれ以外の道もある。ジャンルにもよるが、ネットの小説投稿サイトでポイントを稼げば、出版社の方から声をかけられ、商業出版できる例が激増したのだ。したがって現在、新人の数も膨大な数になっている。
しかしデビューをしたものの、すぐに業界から消える作家も多い。実際、本を出したはいいが、そこから次にどう繋げていけばいいか分からない新人も少なからずいるようだ。
おまけにコロナ禍が、いつになったら終るか分からない。新人賞を持つ各出版社も、関係者中心の授賞式だけで、その後のパーティーは行わないという状況が続いている。だからパーティーの席で、各社の編集者が受賞者に挨拶し、名刺を渡すことができない。そのため受賞者も、賞を実施している出版社以外の編集者と知り合う機会が、ほとんどないのだ。もちろんパーティーがない以上、新人作家が参加して、顔を売ることもできない。編集者も困っているのだが、新人作家はそれ以上だろう。作家になるのは簡単だが、最初の段階から作家であり続けるのが困難な時代なのだ。
だから新人作家に道を示すような本が欲しい。作家志望者が、あらかじめ参考にできる本が欲しい。もちろん作家になる気がない人でも、楽しめるなら最高だ。そんな本がある。『作家 超サバイバル術!』だ。中山七里・知念実希人・葉真中顕――三人の人気ミステリー作家が、「作家とお金」「作家と編集者」「作家とSNS」など、十のテーマをそれぞれに語っているのだ。
本書の特徴を一言でいえば“ブッチャケ”である。今までにも、松岡圭祐の『小説家になって億を稼ごう』や、吉田新司の『作家で億は稼げません』など、かなり作家業の内実を赤裸々に描いたブッチャケ本があった。その中でも本書は、ここまでギリギリのコーナーを攻めるかといいたくなるほど、作家業の諸々をブッチャケているのである。
そもそも出版業界に携わる人は、文化の担い手という意識を強く持っている。したがって原稿料など、金銭に関する話にこだわるのは恥ずかしいという空気が漂っていた。私も文筆業を始めてしばらくは、依頼された仕事の原稿料が幾らなのか分からないということが普通にあった。はなはだしきは、同じレーベルの同じ月に出た文庫の解説料が、半額近く違っているということがあり、さすがに抗議したものである。
とはいえ近年では、原稿料が事前に提示されることがほとんどだ。そのためであろうか、仕事関係の金銭に関して、ある程度オープンに語る作家も増えている。このような傾向を嫌う作家や編集者もいるが、私は賛成。本書で語っている三人の作家も同意見なのだろう。「作家とおカネ」で率直に述べている。知念の「基本、全然儲からない。ただ、当たるとデカい」など、身も蓋もない発言が並んでおり、大いに納得してしまう。
なお、中山の「印税生活になる可能性が高くなったのなら、すぐに税理士を雇うべきだ」、葉真中の「確定申告は専門家(税理士)に任せることです」と、似たようなことをいっている。他の部分でも、二人もしくは三人の意見が、ほぼ一致することが少なくない。結局のところ、作家であるためのメソッドに、独創的な方法はないということだ。