生首とともに繰り広げる珍道中 世にも怪奇な時代小説『首ざむらい』がおもしろい
続く「よもぎの心」は、大名家に花作りとして奉公している咲兵衛が、藩士の不審死の謎を追うことになる。咲兵衛が目撃した河童は、どう一件に絡むのか。意外な方向に進むストーリーと、切ない後味が印象的だ。「孤蝶の夢」は、破戒僧の寺で孤蝶という少女と暮らしていた梛丸という少年が主人公。ある日、破戒僧が何者かに殺され、梛丸は孤蝶と一緒に寺から逃げ出すのだった。殺人の真相は、ミステリーを読み慣れている人なら、すぐに分かるだろう。ただし本作のポイントはそこではない。奇妙な女医に助けられ、元忍者に預けられた梛丸の成長が面白い。全体的にダーク・テイストだが、ラストは妙に爽やか。その落差に作品の魅力がある。
そしてラストの「ねこまた」は、商家の用心棒になった浪人の猫矢又四郎が、不思議な騒動に巻き込まれる。人の心をさらけ出す狸穴の設定が面白く、又四郎の父親の使い方も巧み。又四郎と商家の娘との、淡い恋模様も愉快だ。これはシリーズにしてもいいのではなかろうか。
といったように、各作品の内容はバラエティに富んでいる。さまざまな可能性が感じられる新人の登場を、拍手喝采で迎えたい。そして、これからの飛躍を、大いに期待しているのである。