連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2021年12月のベスト国内ミステリ小説

 今のミステリー界は幹線道路沿いのメガ・ドンキ並みになんでもあり。そこで最先端の情報を提供するためのレビューを毎月ご用意しました。

 事前打ち合わせなし、前月に出た新刊(奥付準拠)を一人一冊ずつ挙げて書評するという方式はあの「七福神の今月の一冊」(翻訳ミステリー大賞シンジケート)と一緒。原稿の掲載が到着順というのも同じです。

 新年あけましておめでとうございます。今年がみなさんにとって最高のものになりますように。1年を始める前に、まずは昨年12月分の各人ベストです。

千街晶之の一冊:石持浅海『新しい世界で 座間味くんの推理』(光文社)

 大学生の聖子、警視庁の幹部・大迫、そして会社員の「座間味くん」——この三人が焼肉店・新潟料理店・炉端焼き店等々、毎回違う店で酒を酌み交わしながら安楽椅子推理に興じる連作短篇集である。大迫の話から違和感を嗅ぎ取った座間味くんが一見突拍子もない感想を口走るが、彼の絵解きによって、ごく自然に思えたストーリーの背後に隠されていた意外な善意や悪意が浮上する——というのが共通する展開だ。座間味くんが感想を口走った時点がある意味で「読者への挑戦」なので、彼が話のどこに違和感を覚えたのか、じっくり考えてほしい。

野村ななみの一冊:彩藤アザミ『不村家奇譚 ある憑きもの一族の年代記』(新潮社)

 水憑きの血を受け継ぐ不村一族の年代記、もしくは不村家に憑く土地神“あわこ様”をめぐる連作短編である。人智を超えた才気を与える代わりに、躰の一部を喰らう“あわこ様”に脚を〈お納め〉した不村家当主をはじめ、親類縁者や奉公人の視点で物語は進んでいく。その中でも狗神憑きの少女と転校生を描く四話「水葬」は、怪異と人の因縁深さを感じさせつつ、ミステリ色も強い。そして切ない。

 異形の者たちが紡ぎ出す縁は、現代でも途絶えることなく続く。乱歩の作品を連想させる、恐ろしさと哀しみ、美しさに満ちた怪異譚である。

若林踏の一冊:佐々木譲『偽装同盟』(集英社)

 日露戦争に敗北し、ロシア帝国に外交権と軍事権を委ねた「もうひとつの日本」を舞台にした警察小説シリーズの第二作である。活劇の要素が多かった前作に対し、本作は女性が絞殺された事件を地道に追う、捜査小説として幹の太いプロットが使われている点が魅力的だ。タイプの異なる二人の刑事が登場し、シーソーゲームのような議論を交わしながら仮説と検証を繰り返すため、謎解きへの興味が一切途切れずに物語が進んでいく。大胆な設定を描きつつ、警察捜査小説の大ベテランがこれまで培った技巧を余すところなく投入した迫力の一作だ。

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