コロナ、都知事選、終末医療……2020年、ノンフィクションは何を描いたのか?

 2020年のノンフィクションを振り返ってみた。

 2020年は新型コロナウイルスにより日本だけでなく世界規模で特殊な1年であった。政府や行政の通達や要請などから生活習慣や行動様式を変化せざるをえないほどのインパクトであったため、世の中が国家や国民といった大きな単位で右へ左へ動いていたと感じる。

 そのために消費やトレンドも過度に集中したものになった一年だろうと期待して書店や取次などのベストセラーランキング(※)を覗いてみると、『鬼滅の刃』の大ヒットや、在宅ワークなど生活スタイルの変化によって「学習」需要からくるビジネスや自己啓発本の好調が注目されたこともあったが、ノンフィクションのジャンルでは期待したほど明確に世相を反映したタイトルというものがなかった。

 出版社に目を向けると、4月の緊急事態宣言の発令時では取材が難しくなるなど雑誌や書籍の製作が滞り、雑誌では合併号や休刊が相次いだ(7月には老舗カメラ雑誌『アサヒカメラ』が休刊、女性誌の『JJ』が12月発売から不定期刊行に、婦人誌の『ミセス』は2021年4月で休刊)。

『コロナ時代の僕ら』(パオロ・ジョルダーノ/早川書房)

 しかし早くも4月下旬には早川書房からパオロ・ジョルダーノ『コロナ時代の僕ら』というエッセイが刊行されている(小説では7月に宝島社から海堂尊の『コロナ黙示録』が刊行されている)。本格的なノンフィクションが刊行されたのは8月に平凡社新書から『ドキュメント武漢 新型コロナウイルス 封鎖都市で何が起きていたか』(早川真/平凡社)が、続いて9月には武漢在住の作家方方(ファンファン)氏が記した『武漢日記 封鎖下60日の魂の記録』(河出書房新社)が刊行される。以後続々とコロナ関連のノンフィクションが刊行されると思いきや、社会評論や過去のウイルス禍の歴史などの本が目立つものの、ルポルタージュとしてのノンフィクションはまだまだ少ない。もちろんベストセラーの上位でコロナに関するノンフィクションを見かけることはなかった。

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