名作漫画の遺伝子

『僕のヒーローアカデミア』に息づく、日本的ヒーローの3要素とは? 石ノ森章太郎の影響を紐解く

『僕アカ』ではどのように内包されたのか

『仮面ライダー』

 そんな石ノ森ヒーローのエッセンスは、『僕のヒーローアカデミア』にどのように内包されているのだろうか。三つのキーワードから探っていくとまず「同族争い」、これに関しては個性を持つもの同士の戦いであることからも明らかな要素の一つであるといえるが、その反面、個性を持つ人間がマジョリティなので、009や仮面ライダーにある「同族=実は同じ穴の狢なんだよ」感は一見随分薄いように思える。「親殺し」に関してもピンとくるポイントはなかなか見当たらないし、「自己否定」に関してはなおさらである。

 しかし改めてよく物語を読み返してみると、読者はあることに気づくはずである。実はこの「同族争い」と「親殺し」、そして「自己否定」というこのキーワードは、主人公の出久と敵連合の主要メンバーである死柄木弔の、そしてオールマイトとオールフォーワンの関係性に集約されているのである。(※以下このあとは本編のネタバレを含む)

 まず出久がオールマイトから受け継いだ能力、ワンフォーオールが元々オールフォーワンから派生している能力だということである。ワンフォーオール継承者の宿願は、その源流であるオールフォーワンを倒すこと。まさにこの二者の関係性においてすでに「親殺し」の要素は成立しているのである。オールマイトとオールフォーワンは一応の決着に至ったが、今後、死柄木がオールフォーワンを継承することによって、出久と死柄木の間で、ワンフォーオールとオールフォーワンの「親殺し」の関係性は継続、真の決着を見ることになるのだろう。

 また「自己否定」に関して言えば、元々無個性だった出久がワンフォーオールという個性を手にすることができたのは、元はといえばオールフォーワンが弟に能力を”与えた”ことに起因する。他人の個性を与奪するオールフォーワンの存在を否定することは、(遠因として)彼によって個性を手に入れることができた自分自身を否定することにほかならないからだ。

 ただし、この自己否定に関しては、おそらく出久がそこで葛藤することはないだろう。能力を持っているのが当たり前のこの時代、大事なのはその能力をどのように使うか、その人そのものの気持ちのあり方だということは作中で常に示されている。能力を失い、それでもヒーローとして皆の、出久の心に残るオールマイト、また能力を失いながらもヒーローとしての気持ちを失うことがなかった先輩ルミオの姿を見てきた出久は、もはや能力の有無以前に、「自分はどういうヒーローでありたいか」という明確なビジョンがある。もし今後の展開でアイデンティティが揺さぶられることがあったとしても、個性を捨てることでヒーローとしてベストな結果をもたらせるのであれば、あっさりその能力を捨ててしないそうな気さえする。

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